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「怒り」との上手なつきあい方 ~パート2~

「怒り」との上手な付き合い方について2回に分けてご紹介しています。

前回(連載第3回)は、怒りの扱い方を学ぶ第1段階として、「怒りとはどういうものか」についてお話しさせていただきました。今回は、相手の気持ちを尊重しながら自分の思いを伝える「アサーティブ」に怒りを表現するコツについてお伝えします。

怒りの裏にあるもの

怒りの感情を理解するためには、怒りの裏にある本当の気持ちに気づいて表現することが大切です。純粋に「怒り」だけ、という感情はあまりありません。怒りの感情がこれほどまでに私たちを混乱させ、相手を傷つけてしまう原因は、「怒りの奥にある気持ち」を表現する側も受け取る側も気づいていないからです。 

怒りが伝えているサイン(奥にある気持ち)とは

①フラストレーション(葛藤)

自分が思っていたように、そして期待していたようにならないとイライラやフラストレーションが溜まります。渋滞に巻き込まれたり、待たされたりする状況では、怒って物や人に当たりたくなります。

②傷ついた気持ち

怒りの下には、深い悲しみ、孤独感、絶望感、恐怖などが隠されていますが、それは、過去の傷ついた体験から来ています。本当は怒っているのではなく、とても悲しかったり、寂しかったり、孤独だったりします。何かに対する強い怒りの下には、このような感情が地雷のように埋まっていることが多いのです。

③境界や限界設定

怒りは、あなたの境界が侵されていたり、理不尽な状況に置かれていたりすることを警告してくれます。また、断れずに多くのことを引き受け、相手の要求に応じていれば、いずれ怒りが生じます。「悪いけど今はそこまでやれない」といったように限界を設定することで怒りを相手にぶつけずに済みます。

アサーティブに怒りを表現するコツ

1、タイミングを考える 
相手が落ち着いて聞ける時間と場所を選びます。

2、穏やかに切り出す 
最初から攻撃姿勢を見せると、相手は身構えてしまいます。 「早く言えば良かったけど、気持ちを整理するのに時間がかかった」など切り出し方を工夫してみましょう。

3、怒りの程度がマイルドな時に、簡潔な言葉で表現
怒りの程度がかなり高い状態では、自分や誰かを傷つける行動を取ってしまいがちです。なるべく溜めこまず、怒りが小さいうちに取り組みましょう。また、なるべく簡潔な言葉で表現しましょう。

4、怒りの裏にある気持ちを伝える 
怒りの気持ちは、その裏にある感情も合わせて伝えない限り、相手には理解されません。怒りは、ぶつけるものではなく、そこにある課題を明らかにし、問題解決を促すための良いきっかけとなります。

5、1つに絞り、具体的に
「前から引っかかっていたんだけど、例えば先週もこんなことがあったよね」というように、 一番言いたい問題に絞って、具体的な場面(事実)を挙げて話すよう心掛けましょう。  

6、「アイメッセージ」で伝える 
「あなたはどうしてあんなことを言ったんですか!」というように相手を責めず、自分を主語にして気持ちや要望を言います。そして相手の気持ちを聞き、解決法を探っていけばよいのです。

7、表情や声のトーンにも意識を
怒りを表現しようとすると、不必要に微笑んだり、オドオドしたり、反対にヒステリックに怒鳴ってしまうこともあります。アサーティブに怒りを表現する時は、基本的に真顔で、真剣な顔をします。そして落ち着いた声で伝えます。

8、「相手」ではなく「問題」に目を向ける
対峙しているのは「相手」ではなく「問題」であることを忘れないようにしましょう。 相手は「敵」でなく問題解決の「協力者」です。「あなたが○○だから」ということではなく「○○であることについて共に解決していきたい」という表現で伝えましょう。

アサーティブに怒りを表現する ~家庭での事例~

さくらは夫の大貴が電化製品を消し忘れて、家を出ることに腹を立てています。今日もエアコンやテレビの電気はつけっぱなし。それを大貴に注意すると、いつも口論になってしまいます。どのように表現すればよいのでしょうか。

さくら:「あのね、話したいことがあるんだけど、今日の夕食の後、時間とってもらえるかな?」 

大貴 :「うん、いいよ。今日の夕食後ね。」        

~夕食後~

 さくら:「前から気になってたんだけど、私電気をつけっぱなしの状態がすごく嫌なんだ。無駄な電気代を払っていると思うと、損してるなって思って悲しみや怒りが出てくるの」 

大貴 :「前から、電気のつけっぱなしについて、よく喧嘩になってたもんね」

さくら:「イライラを大貴にぶつけるんじゃなく、一緒に状況を改善していけたらいいなって。大貴は、このことについてどんなふうに思ってる?」

 大貴 :「うーん、改善したいけど、忙しいと忘れるし。昔から、あんまり電気代についても節約しようって思わないんだよね」 

さくら:「その部分にズレがあるね。一気に2人の価値観を合わせるのは大変だよね。まずは、お互いの価値観の中で、解決策を考えてみるのはどうかな?」 

大貴 :「うん、少しずつだったら歩み寄れそうかも」

さくら:「話聞いてくれてありがとう、少しずつ一緒に暮らしやすい状況にしていきたいな」 

大貴 :「うん、こちらこそありがとう。今までイライラさせちゃってごめんね」

いかがでしたでしょうか。このように、直接怒りの感情を伝えるのではなく、相手の考えを尊重しながら、共に解決の道を探っていきたいという姿勢で話すことが大切です。

アサーティブな怒りの表現法を身につけることで、他者との関係がより円満に、豊かなものになっていきます。

職場には様々な価値観を持っている人たちが共に働いています。自分が当たり前だと思っていることが、相手にとっては当たり前ではないのです。価値観や考えが違えば、働いている中で気になることやイライラすることもあるでしょう。よい職場づくりにおいて、互いに尊重しながら解決策を模索していく雰囲気を作っていきたいですね。

職場や家庭でのコミュニケーションにぜひお役立てください。

著者:葵いと(あおい・いと)

臨床心理士・公認心理師

立教大学大学院現代心理学研究科臨床心理学専攻修了。児童相談所など行政領域での経験を経て、現在は児童精神科、心療内科にて勤務。主に発達障害や家族関係の悩みへのカウンセリングを行っている。
また「働く人のメンタルヘルスケア」を目的に、歯科医院の従業員に向けた出張カウンセリングにも力を注ぐ。
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