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医療従事者に必要なコミュニケーションとは ~高齢者を診る若いスタッフの育て方~

超高齢社会でまさに前例の無い予測不能な時代。診療所経営においても様々な課題が生まれると予測される中で、高齢者に関わる業界において、この状況が危機ではなくチャンスだと思えるような経営のヒントを模索していく特集。

今回は、名古屋市にある吹上みなみ歯科の相宮芳美さんにご出稿いただきました。世代間コミュニケーションにおけるヒントが詰まっています。

「高齢者」の定義

65歳以上の高齢者が人口に占める割合(高齢化率)が21%以上を占める社会を超高齢社会と呼ぶ。内閣府の「高齢社会白書」によれば、現在日本の高齢化率は28.9%。これは世界第1位、ダントツのトップの割合であり、すでに4人に1人が高齢者という社会で我々は生きている。

でも、ちょっと待って。65歳って「高齢者」なのだろうか?

「サザエさん」の波平さんを例に挙げて考えてみよう。

彼は54歳で、1970年、アニメ「サザエさん」が開始された頃の高齢化率は7.1%、男性の平均寿命は69.31歳であった。2022年の男性の平均寿命は78.64歳であるから、寿命は10年ほど延びている。

また、当院の20代のスタッフに波平さんの画像を見せて、いくつに見えるか尋ねたところ、平均は76.4歳だった。約50年の間に寿命が約10年延びただけでなく、約20年見た目の印象が変化したことも分かる。

このように、医学の進歩や栄養状態の改善などにより「高齢者」の捉え方は昔と今で変化し、個人によっても千差万別である。となると、結局「高齢者」の定義は制度・行政上必要な年齢による分類に過ぎないともいえるだろう。

世代間コミュニケーションの難しさの本質とは?

年齢の若いスタッフの中には高齢者に限らず、年上の患者さんとのコミュニケーションを苦手にしている人が多い。同じ患者さんでも子どもや同世代なら平気なのに、世代が違う方とは、一体何を話したら良いの?と悩んでしまう。

さて、この現象を引き起こしている原因は何だろうか。

ここで一旦、「人は未知の領域を理解できない」ことが原因だと仮定して話を進めてみよう。

人間は自分の知らないことや、不明確なことが苦手な生き物である。未知のウィルスに代表されるように、良く分からない、曖昧なものに人は不安や恐怖を感じるものだ。

3世代同居が多かった時代から核家族化が進み、自分と違う世代の人々と触れ合う機会そのものが減少しているといわれる昨今、学生時代までその機会がほぼなかった若者が、社会人となり突然、様々な世代とのコミュニケーションを必要とされる環境に入れば戸惑うだろうことは想像に難くない。20代のスタッフにしてみれば、高齢者は「自分のまだ見ぬ世界を生きている人々」なのである。

次は一転、高齢者側について考えてみよう。先ほどまでの理屈に従えば、例えば70歳の方は、若い時代も経験しているのだから、20代の若者の気持ちも理解できる、と言えるはずだ。

ところが不思議なことに、こちらはこちらで、「今どきの若者の考えていることは良く分からない」と言う。こうなると、世代間コミュニケーションがうまくいかない原因を、「人は未知の領域を理解できないから」という理由で説明することが難しくなってくる。

誰しも「価値観メガネ」をかけている

ここで諦めず、もう一歩先に考えを進めてみると、世代を問わず存在する共通点が1点だけあることに気づく。

それは「お互いが相手のことを分からないと思っている」ということだ。これは、誰しも「現在の自分の価値観を知らず知らずのうちに押し付け合いながら、コミュニケーションをとっている」とも言い換えられるのではないだろうか。

私はこれを、「自分の価値観メガネ」(以下「自分メガネ」)と呼んでいる。自分メガネをかけて物事を見ることだけを続けていると、いつの間にか、見えているものが世界の全てだと考えてしまうようになる。これが「相手が何を考えているか分からない」状態を引き起こしている可能性がある。

医療従事者が目指すべき世代を超えた円滑なコミュニケーション

無意識の「自分メガネ」を意識できるようになると、同じように他者も「価値観メガネ」をかけているということに気づき始める。メガネonメガネはできないから、他者のメガネを借りようと思うと、自分メガネを外さなくてはならない。

結局、世代間コミュニケーションの苦手な人というのは、若者、高齢者問わず、「他者のメガネを借りることが苦手な人たち」といえるのではないだろうか。

では、私たち医療従事者はどのように相手のメガネを借りれば良いのだろうか。ここで、私が考える2つの方法を提案したい。

1点目は、「相手を見逃さない」ということである。

これは、相手の言葉、しぐさ、表情などをよく観察するということである。オープンクエスチョン(開かれた質問)などで相手の反応を引き出し、その人の生活背景や価値観を知る。相手を知ろうとする姿勢と敬意ある接し方が、相手の心のドアを開ける鍵となる。

2点目は、「専門家として成長する」ことである。

趣味や嗜好の話で距離を縮めることも大事だが、そこに依存するとただの「仲良し」になってしまい、重要な指導がしにくいなど、健全な関係が築けなくなる。

ここで大切なことは、医療従事者として患者さんに信頼されることである。例えば、医学的知識を分かりやすく伝えることで「若いのに、さすが専門家だな」と患者さんの信頼感が増し、その後の指導や助言を受け入れてくれるようになるといった具合である。

以上2点の実践で、若者と高齢者という世代ではなく、医療従事者と患者という、人間対人間の信頼関係が構築されていく。これこそが医療従事者に求められる真のコミュニケーションといえるのではないだろうか。

「分かち合い、共有する」こと

コミュニケーション (communication) の語源は、ラテン語のコムニカチオ(communicatio)であるといわれる。コムニカチオの意味は「分かちあうこと、共有すること」。

つまり、円滑なコミュニケーションとは、相手と自分の価値観を分かち合い、共有することであるともいえるだろう。

これは何も対患者のみに必要なものではなく、院長とスタッフ、先輩と後輩といった組織のコミュニケーションにとっても役立つ考え方であり、かつとても重要なことである。

「なんで上手く伝わらないのだろう」「あの人何考えているのか全然分からない」と思った時にこそ、冷静になって自分メガネをそっと外し、相手のメガネをかけてみよう。そこから、新しい世界が開けるはずだから。

著者:相宮 芳美

日本顎咬合学会認定歯科衛生士・国家資格キャリアコンサルタント。

一般企業に勤務後、歯科衛生士資格を取得。

その後、高校講師として10年間教壇に立つ傍ら、2015年開業の吹上みなみ歯科の運営にも携わる。現在は歯科医院専属となり、スタディーグループI-MANA(イマナ)を立ち上げ、歯科臨床、キャリア開発、人材育成などをテーマに活動。現在勉強会メンバー募集中。勉強会・セミナーなどの詳細はI-MANAホームページまで

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