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デジタル化した新時代|5年後を見据えた歯科医師・歯科技工士育成の展望

歯科業界の変遷のスピードが信じられないくらいに速くなっている。特にデジタルワークフローのめざましい変化によって生ずる渦に巻き込まれ、目が回っている先生が多いのではないか。目まぐるしく変化する景色は、確かに刺激的である。しかしながら、スピードが速くなればなるほど人の思考がついていかず、目が回り本質も見極める感覚が鈍くなっていく。

その結果、今後どこに連れて行かれるのかが分からないことから不安を覚え、とにかくデジタル関連の機材を導入しなければ遅れてしまうと焦る先生も多いのではないか。この記事では、これから5年を見据え、私なりに予測している変化をお伝えし、日常臨床のクオリティーを高めることにつながれば幸いです。

匠の技と汎用化の二極化

歯科医療はルーティンワークとして、汎用化できるものとそうでないものがある。

例えば、修復治療をする際に歯をどこまで削り、形態を整えるかを考えること、患者固有の義歯の粘膜面形態を付与することなど、瞬間ごとに診断と評価をしながら治療を行う。加えて、イメージした通りインスツルメントを動かす正確なスキルが求められる。

医科の分野にて導入されているような手術支援システムに似たような機械にとって変わられる時代は、この次の5年では来ないであろう。依然と細かい手技の習得が求められ、匠の技へ近づけるように日々の研鑽が必要である。

一方で、歯科技工の分野ではデジタルワークが一気に加速する。セレックに代表されるワンデイトリートメントは汎用化され、一般の患者さんにも広く浸透していくと思われる。また義歯の分野でも調子の良い時の義歯をコピーする技術が発展する。先日トライしたケースでも良好な結果を得ている。

汎用化できる分野は、アナログでは困難であった治療結果の良いものをコピーすること。インレーを単純に詰めるといった極めて簡単であった分野の労力の軽減にデジタルの波が一気に来ると思われる。安価で、そこそこ良いものが、労力少なく提供できる可能性が広がっている。

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デジタルデンティストリーの進展

昨今、口腔内スキャナー、ミリングマシーンを院内に導入して治療を行うケース機会が増えてきた。一方で、機械のみで良好な結果をもたらすことは困難で、少し技工士の手を入れていくことがポイントとなる。クオリティーの高い補綴装置の製作には、技工士の匠の技が今もなお求められているのである。

絶滅危惧種になりつつある技工士学校の入学者数が増えている。コロナ禍において手に職をつけることが、将来の安定につながるとの気運が背中を押している。世間では儲からない、きつい職業であったが、入学者が増えている傾向があるのは福音である。

私が教鞭をとっている学校では、特に女性の割合が増加している。結婚、妊娠、出産などのライフイベントが多い女性にとっては有利な職業になると考えている。補綴設計のオペレーションの担当はリモートワークで行う。そして、本当に仕上げる匠の技を持つ院内技工士がチェアーサイドにて仕上げる時代がもうそこまで来ている。院内の技工士として勤務をする女性技工士が、リモートワークにて働く方向性となるのではないかと期待している。

コミュニケーションを取れない歯科医師

デジタルを駆使して診療を行う一方、人同士のコミュニケーションの形態も変化しつつある。SNSの台頭によって、より便利にスレッドにて人が交流できる場が増えてきた。

我々、医療職に携わる者は、医療技術はもちろんのこと、患者さんの問診、診療内容の説明、リスク、予定通りに進まず問題が出ることなど、患者さんの気持ちに寄り添いながら適正なコミュニケーションをとらなければならない。そんな歯科医師の根本である能力を育む機会である国家試験、研修医時代に多くの経験を積むことのできなかった先生が多くなってきた。しかし、患者ニーズの高まりにより、昔と比べると重い責任を取らなければならない現在の医療に対する厳しい目があることもその一因と言える。

怒られること、辛いことから逃げる若手歯科医師 

パワハラという言葉が示すように、本人が危ない時や誤った行動をしてしまった際に学校の先生や指導者から怒られた経験がない先生が増えている。そのような教育の下で育った若手は、患者さんからのクレームに極端に弱い。今までに経験したことのない患者さんからのハイレベルな追い込まれ方にたじろぎ、場合によっては感極まり、その場で思考停止するケースすらある。ここ数年の質の変化に驚きを隠せない。

資格を持って仕事をすれば課せられる責任とのギャップ

歯科医師は国家資格であり、責任をもって診療を行い、過失があれば責任を取ることになる。今まではそんな人生の危機的状態になったことはなく、現場に出た瞬間に言い訳のできない事態が降りかかってくる。

国家試験の合格率が下がっている昨今、歯科医師の資格取得を目標にして学生時代に頑張り、その後どうするか分からないまま現場に出ることで、責任としなければならないことのギャップが大きいのだ。さらに、褒めて伸びるタイプと自分から言ってしまう先生が多くなってくる。

では、どうしたら良いか?アクションプラン

個人歯科医院には、歯科医師の外部メンターによる教育システムの確立が有効ではないかと考える。現在の患者ニーズは地域性、個別性が高くなっている。知識と匠の技とのバランスをどう捉えるかがポイントである。

初診から患者コンサルテーション、手技に至るまで若いうちにマスターしておかなければならないテクニック、そして医療人としての人間性をいかに育てていくかがポイントである。現在、私は大きな医療法人にて歯科医師育成を個別に承っている。教科書には載っていない臨床の魅力を伝えるとともに、完全実戦形式での症例相談、具体的なトリートメントプランニングを指導し、受講した先生は確実に力をつけてきている。

まとめ

5年先を見据えるとデジタル化、それを扱う優秀な歯科医師・歯科技工士の育成が急務になってくるであろう。私の医院の周りは2キロ圏内に100軒の歯科医院が立ち並ぶ激戦区である。そのような中で生き残り、長期間安定した経営を行うために立ち向かわなければならない壁がたくさんあることを肝に命じ、日々診療に取り組んでいきたい。結局、医療を支えているのは人間なのである。

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著者:相宮 秀俊

吹上みなみ歯科院長

愛知学院大学歯学部を卒業後、10年間の歯科医院勤務を経て、2015年に吹上みなみ歯科(名古屋市昭和区)を開業。
愛知学院大学や東海歯科医療専門学校などで講師を務める。
著書も多数。最新の著書は「次の一手を見据えた治療戦略 歯界展望 特集」。