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『医療』という一つの手段で |その人がその人らしく生きるお手伝い

在宅医療がないこの地域で、自宅で過ごしたい、自宅で最期を迎えたいと願う患者さんの「選択肢」をつくろうと開設されたのが「くまのなる在宅診療所」だ。

そんな診療所の理念は「『その人がその人らしく生きる』のお手伝い」をすること。

診療所は、三重県の最南端、紀宝町にある。海、川、山に囲まれた自然豊かな場所だ。一方で紀宝町がある南牟婁郡は、65歳以上の高齢化率が約40%と高齢化や過疎化が進んでいる地域でもある。

“その人がその人らしく生きる”ことを目指す診療所

現在、医師は濱口政也院長(39)と大森直美医師(33)の2人、そして看護師3人、事務職員2人でくまのなる在宅診療所を運営している。24時間体制で在宅医療を行い、現在は30代から100歳以上までの約80人の患者さんを受け入れている。

加齢によって病院に通院できない人、ガン末期で自宅での療養を望んだ人、自宅療養を選択した患者さんたちの自宅を訪れ、それぞれの声に耳を傾け診療を行っている。

くまのなる在宅診療所は「その人がその人らしく生きるお手伝い」を理念に掲げている。

医療というレンズを通して患者さんを診るのではなく、福祉関係者らと相談しながら患者さんの生きがいを模索し、その想いを実現するためにサポートするというスタンスだ。

「どう生き、どのような治療や福祉サービスを受け、どう最期を迎えるか。それぞれの患者さんの想いに寄り添いお手伝いをしていくのが自分たちの仕事だ」と濱口院長は語る。

一度きりの人生、一人一人の生き方を医療という一つの手段で応援していく、これがくまのなる在宅診療所が大切にしていることなのだ。

そしてこの理念は患者さんだけに向けられたものではない。

診療所を運営する以上、関わる職員がいる。関わってくれる介護、福祉関係者も含めて、職員も「自分らしく生きる」ことを大切にしてほしいという思いが濱口院長にはある。

2020年7月、濱口院長は、大学時代の同期の女性医師と2人で、この診療所を立ち上げた。しかし、女性医師の家族が体調を崩したため地元の四国に戻ることになり、1年間ともに支え合ってきた仲間が今年7月、診療所から去ることになった。濱口院長はそれぞれの生き方を尊重する姿勢を崩さず、送り出した。

また、医療以外にやりたいことがあるという事務担当の女性職員についても、その意思を尊重し、別業種の仕事との掛け持ちを受け入れている。

(なお2021年3月からは、大森直美医師が新たに仲間に加わっている。学生時代、地域医療の勉強会で出会った濱口院長からの声かけで、地域医療を経験してみようとこの地域に足を踏み入れた。大森医師については、後の連載で詳しくご紹介する。)

くまのなる在宅診療所の職員たち

職員も「その人らしく生きること」を大切にしてほしいという考えを持つようになったのには理由がある。濱口医師には大学時代、『いい医療をしたい』と熱く語り合ってきた仲間がいた。看護師になった仲間の中には、日々の業務に謀殺され、病院を辞め、看護師の職から離れた人もいたという。この状況を目の当たりにしたとき、「職員を守れなかったら、患者さんも守れない」と考えるようになった。職場はスタッフがその人らしく生きることを体現できる場所でなければならない。職員がよりよく生きることは、患者さんをよりよく支えることに繋がるのだと濱口院長は考えている。

診療所が何を大切に、どのような医療を提供していくのか、職員間の共通認識はよりよい医療の提供に繋がる。

くまのなる在宅診療所では「その人がその人らしく生きる」というこの空気感を職員とともに共有しながら進んできた。

足で得た地域のニーズを大切に 在宅医療普及へ歩みだす

濱口院長は、診療所がある紀宝町と隣町の和歌山県新宮市で生まれ育ち、1年間の浪人生活の後、広島県内の大学の放射線学科に入学、放射線技師の資格を取得した。その後、さらに人と密に接する仕事をしたいと医師を志す。高知大学医学部に入学したのは2浪の猛勉強の末だった。

高知県内の小さな村に何度も足を運ぶなどして地域医療について深く学んだ大学時代。その地域で何が必要なのか、どんな医療が求められているのか考える日々だった。患者さんや地域の人たちの声に耳を傾けることの大切さを学んだのも「地域」だった。

卒業後は大阪の急性期病院で初期研修を受けたのち、家庭医の専門医プログラムの途中で、父親の急死をきっかけに地元に戻る決断をした。地元・新宮市から通える三重県御浜町にある地域の中核病院で勤務医として約4年間働き、在宅医療にも携わった。そして、地域のニーズに応え、この地でさらに在宅医療に力を入れたいと2020年7月に「くまのなる在宅診療所」を開業した。

王道に固執せず 自分がやりたいことに耳を傾ける

専門医取得を断念し、地元に戻る決断をした濱口院長。自身の医師としてのキャリアについて、「王道からめちゃくちゃ外れていると思う」と笑顔をみせる。「それでも自分は専門医をとっていないことは気にしていない。必要と思ってもらえる場所で医療を提供している」と自信ものぞかせる。「道に迷ったときは王道の生き方を選択することに固執せず、自分がやりたいことは何か、心躍ることは何かを考えて道を選ぶことが大事なのではないだろうか」と自身の経験を踏まえて投げかけている。

次回は、医療経営における工夫などについて聞いた。次回の配信は12月3日(金)です。

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著者:IGYOULAB編集部・川田

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