都会と地方の2拠点生活から見えたもの|地域医療・キャリア形成の可能性とは - IGYOULAB - 開業医のための医療経営マガジン(いぎょうらぼ・イギョウラボ)

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都会と地方の2拠点生活から見えたもの|地域医療・キャリア形成の可能性とは

三重県の最南端、紀宝町にある「くまのなる在宅診療所」。24時間体制で在宅医療を行っている。この診療所に2021年3月から仲間に加わったのが、大森直美医師(33)だ。濱口政也院長(39)をはじめ、看護師3人、事務職員2人の仲間とともに、この地域の医療を担っている。

大阪の病院と掛け持ちしている彼女が感じた地域医療の魅力について聞いた。

都会と地方の患者ニーズの違いが幅の広い医療に還元できる

大阪でも在宅医療の経験がある大森医師は、地方での在宅医療との違いについて、「都会は比較的年齢層が若く、往診のような感覚で活用されるケースが地方よりも多い印象」と話す。また、1人1人のお宅が近いので、半日あれば20軒まわることもできるという。一方で、三重県南部では「患者さんの年齢層が高いだけでなく、家族が都会に出ているという理由や、介護する家族も高齢であるといったことから、医療や介護といった家族以外のサポートをそれぞれに合った形で受けているケースが多く、その一つとして在宅医療を利用する人も多い」という。交通の不便さも通院の難しさに拍車をかける要因だ。同じ在宅医療でも地域によってニーズが全く異なると大森医師は感じている。

2021年3月から三重県の診療所での勤務を始めた大森医師。都会の病院にいるだけでは見えなかった世界が見えるようになってきたという。「例えば介護や経済面の問題など、様々な家族間の理由で自宅に戻ることができないといった医療以外の部分で考えることが増えた」と話す。また、家族や患者さん本人にとって“その人らしい生き方”が異なり、「一人一人の望む形をできるだけ叶えてあげられるように」と考えるようになったという。病院勤務だけでは見えなかったこうした視点は、この先の病院での勤務においても還元できるとプラスにとらえている。

在宅医療を広める他業種連携は結局、声かけがポイント

この地域では24時間体制で在宅医療を担う診療所は「くまのなる在宅診療所」のみだ。まだ在宅医療が根付いておらず、「ギリギリまで病院に入院し、あと数日、数週間で亡くなるのではないかという段階で相談に来る人が多い」という。日、週単位の関わりになることもあり、患者さんやその家族と関係性をつくる前にお別れがくることも。「あと1カ月あれば、もう少し何かできたのではないかと考えることも最近多い。元をたどれば、この地域にもっと在宅医療が根付いて、広く在宅医療の存在を知ってもらえれば、我々が力になれることがたくさんあるのではないか」と大森医師は語る。

在宅医療の存在を知ってもらうためには、ケアマネジャーさんや訪問看護師に対して「こういう人がいたら紹介してください、早めに相談してくださいね」という積極的な声かけが必要なのはもちろんだが、医師への周知も必要だと強く感じている。最近では、近隣の拠点病院に対して積極的に交流をもつ働きかけを少しずつ行っている。医療・福祉・介護の連携は、地方では特に大事だと感じていることの一つだ。

 都会と地方の2拠点生活での経験で得たこと

都会の病院と地方の診療所。全く異なる環境での経験は大森医師にとってプラスに働いている。

特に、大森医師が専門とする泌尿器科は三重県の南部では少なく、泌尿器科疾患があっても通院困難で受診できていない人も多い。また、都会では取り入れられている薬や治療法が、こちらでは行われていないこともあるという。自身が大阪の病院で学んできた方法を新たに取り入れ、在宅の患者さんに提案したところ、劇的に良くなったことがあった。「都会で経験してきたことを地域に還元できた。患者さんがこんなに喜んでくれるのかということ経験し、とても嬉しかった」と笑顔を見せる。

(くまのなる在宅診療所の職員たち)

「若いうちは経験を積んでしっかり勉強するべきだ」という人もいる。大森医師は「そういう意味では環境の整った大きな病院で学ぶ方がいいのかもしれないが、人生にはタイミングや縁がある。いまは、自分が専門とする泌尿器科での経験を積みながら、もともとやりたかった地域医療もできて、身体的にも精神的にもバランスがとれている」と話す。

 大森医師は「都会で経験したこと、学んだことを田舎に持ってくるという繋ぎの役ができたら」と展望を語る。

十人十色のキャリア形成 目指す医師像とは 

10年後、20年後、どうなっていたいということは明確には決まっていない。三重の診療所でやり続けるかもしれないし、地元・岡山に戻るかもしれない、都会の大きな病院に戻るかもしれない。選択肢は広がる。それでも大森医師は、「自分にしかできないことを見つけて、これまで学んできたこと、経験してきたことを患者さんに還元したい」という強い気持ちは揺らがない。

「泌尿器科の在宅医療が普及していない中、まだ埋められていない隙間を探しつつ、そこに自分ができることがあれば強みにして発信していきたい。少しでも地域のためになることがあれば何でも挑戦したい」と意気込みを語る。

また、コロナ禍ではあるが役場のバックアップのもと、地域のつながりを生み出そうと「ドクターズカフェ」をスタートさせた。現在は月1回、地域の医療・介護に携わる人たちを対象に、健康に配慮した手作りケーキと自身で淹れたコーヒーを提供している。まだ始まったばかりで、小さなコミュニティではあるが、同じ職種でも事業所が違うと話をする機会が少なく、こうした交流の場は参加者からも好評だという。

地域医療においては多職種連携が鍵であることから、「医療・介護従事者がこうした場所でコミュニケーションをとることで、地域のより良い医療・介護につながれば、この地域で働く医師としてとても嬉しいこと。今後は、地域住民も巻き込みたい」と活動の広がりを目指す。

地道な取り組みは、少しずつ繋がりの輪を広げ、地域をよい方向に導く化学反応を起こしていくのだろう。

“医師のキャリア形成は十人十色”

「自身の選択が正しいか正しくないかは、今はまだわからない」と前置きした上で、「一度きりの自分の人生、医師としての自身のカラーを探求していくことが大切なのでは」と話す。自分にしかできないこと、自分ができることは何かを探り続けていくことは、自身の可能性を広げていくことに繋がるのだろう。 

今では2拠点で働きたいという後輩からの相談を受けているという大森医師。彼女の姿は、地域医療に対しても、そして医師としてのキャリア形成においても無限の可能性があることを示してくれているのかもしれない。

著者:IGYOULAB編集部(イギョウラボ)

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