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【連載・第5回】さらなる組織の成長へ 権限委譲がもたらす好循環

広島県の中心部で外来・入院診療や訪問診療を行っている「ほーむけあクリニック」。
患者さんや働く仲間が集まり、よい循環を生み出している医療経営のヒミツを探る連載。最終回は、看護部長やマネジメント室の室長を務める井ノ口亜希さん(42)に権限委譲などについて聞いた。

立ち上げメンバー 過去の “人問題” をこう振り返る


24歳から看護師としての道を歩み出し、12年間、広島県の大学病院に勤めた井ノ口亜希さん。大学病院で共に働いてきた ほーむけあクリニックの横林賢一院長が開業すると聞き、地域の診療所での医療に携わりたいと退職。その後、1年間、ハワイに短期看護留学に行ったり、訪問入浴を学んだりと、地域医療で必要なことを学んだ。

ほーむけあクリニックの立ち上げから、看護師長として横林院長と共に歩んできた唯一の看護師だ。

クリニック立ち上げ当初は、初めて経験することが多く、右も左も分からない中で進んできたと井ノ口さんは振り返る。とにかく目の前の業務をこなし無我夢中で前進してきた。そんな中で、看護師が次々と辞めていき総入れ替えとなったことも経験している。

しかし、いまは「うちはいまこんな医療や活動をやっている。うちはこんなクリニックです」と言えるようになった。診療所としてのスタンスを言えるようになったことで、それをやりたいという志を持った人たちが集まってきた。職員みんなが同じ方向を向いている組織になったからこそ、患者さんが増え、働きたいという人が集まってくる好循環を生み出す組織になったと井ノ口さんは捉えている。

(なお、理念経営などに関しては、連載第1回〜3回の横林院長のインタビュー記事をご覧ください。)

ほーむけあクリニックの連載はこちらから

より成熟した組織づくりを目指し組織改編

この4月、組織改編が行われた。そこには「近隣の人たちの笑顔を健康面からサポートする」という理念を達成しつつ、職員にとっても働きやすい環境を作ることで地域に還元できる、より成熟した組織にしたいという院長の思いからだ。

井ノ口さんは4月から看護部長、さらに新設されたマネジメント室の室長を務めている。

「マネジメント室」は、医師、看護師や介護士、事務職員、介護支援専門員、作業療法士、リンクワーカーなど各職種のリーダー以上の18人で構成され、ほーむけあクリニックの半数近い職員が所属している部門だ。

理事長や院長、副院長などでつくる「理念経営企画室」をトップに組織が構成されていて、それに続く部門として「マネジメント室」が位置づけられている。

理念経営企画室は、どうしたらクリニックの理念を達成できるかを考え、各部門に提案。マネジメント室は、「人事・働き方改革推進室」や「DX推進室」などそれぞれの部門からの報告を受け、困ったことや迷ったことがあったときに相談を受け付ける役割を担う。それぞれの部門の目標や活動内容などを、月に1回のマネジメント室の会議で共有している。

これまでは組織のほとんどのことについて、理事長や院長、副院長、そして看護師長や事務主任で決めてきた。組織のために何をしたらいいかが分かる人、そういう意識を持つ人を増やしていきたいという院長の願いから、各職種のリーダーがメンバーとなり、組織について考えるマネジメント室を立ち上げたのだ。

「組織運営について、みんなで考える」

ほーむけあクリニックでは、コロナ禍での対応などスピードある決断が必要な有事の際は、トップダウンで動いてきたが、それ以外は、職員みんなで考えることを大切にしている。

さらにこれを促進するために、クリニックでは、個人やグループごとにチャットなどでやりとりができるコミュニケーションツールを新たに導入、職員同士のコミュニケーションを積極的にとっている。

さらに、朝礼の内容などをツール上にまとめ、日勤や夜勤など働く時間帯が異なっても、職員全員が情報を共有できる形をつくっている。

これまでメモや電話で伝達していたことが、ツールの導入によって、急用以外は、互いの時間を拘束せず、自身がよいタイミングでやりとりができていることも大きいと井ノ口さんは話す。

心理的安全性のある組織を目指して

経営が絡む話は事前に院長に相談するものの、運営などに関する決定権は、マネジメント室の室長を務める井ノ口さんにある。「権限委譲」の一つの形だ。
権限委譲やリーダーの育成を図ろうと、マネジメント室のメンバーを対象にしたマネジメントのノウハウなどを学ぶ「ほーむけあリーダー研修」も新たにスタートした。「DX」「ロジカルシンキング(論理的な考え方)」などについて、外部から講師を招いて勉強会を開き、グループワークなどを交えて学んでいる。


クリニック開業から5年。これまでは、一人もしくは少数の担当者だけが内容を把握している「属人化」がよい方向に働き、担当者を専任とすることで、業務の効率化などに繋がってきた。しかし、職員の数とともに事業規模が大きくなるにつれて、「誰かだけが知っている」という状況がマイナスに働くことが出てきた。

人材育成とDXの活用によって、業務を可視化、標準化することで、「助けを求めてもいいんだ、意見をいっても大丈夫なんだ」という心理的安全性のある組織を目指している。

勉強会で学んだことは、参加者全員がレポートを提出して共有している。学んだことを自分の中に落とし込み、それぞれの気づきを共有しながら、学びを現場で活かしていく流れが構築されている。

勉強会の開催によって、これまではリーダーの井ノ口さんに質問がきていたことも、職員自らが提案、解決してくれるなど、すでに成果も出てきているという。ボトムアップを感じられるようになっていると井ノ口さんは手ごたえを感じている。

権限委譲で生まれる“余裕”の大切さ

マネジメント室長として権限を与えられている井ノ口さん。看護師長としてクリニックの立ち上げ当初からいる井ノ口さんには、看護師としての業務に限らず、自身しか知らないことが多数あるという。

マネジメント室の立ち上げによって、リーダーの意識を持つ職員が増えたことで、自分の権限を他のリーダーに委ね、自身が関わらなくてもいいことが出てきたことで負担が減ってきた。もっと抱えるものが多い院長の負担を想像すると、権限委譲の重要性を感じている。

クリニックの理念に共感し仲間が集まっているほーむけあクリニックは、「患者さんのためにこんなことをしてみたい」とやりたいことがどんどん出てくる職場だという。患者さんがこんなことを言っていたよと報告すると、クリニックとしてできることを考えようとみんなで動く。

例えば、ペットに会いたいと言っている入院患者さんがいたら、病室は個室であることからゲージで連れてきて再会してもらったり、お誕生日会をしてあげたいと望む家族がいたら、面会の制限を一部解除し、朝から部屋を飾り付けて患者さんを祝ったりしてきた。

しかし、目前の仕事に追われると、こうした患者さん一人一人の思いを実現するために考える時間も奪われてしまう。そういった意味でも、井ノ口さんは「余裕」を生み出すことの大切さを感じている。

院長から看護部長へ、看護部長から看護師長へというように、少しずつ権限を委譲することで、それぞれに余裕を生み出し、クリニックとしてできることを増やし患者さんや地域に還元していく、それが、クリニックの理念をさらに追求していくことに繋がっていくのだ。

何でも相談できる関係性を築き、安心して働ける職場づくりに取り組んできた土台があるからこそ、組織のあり方を見直すことで、クリニックとしての可能性を広げていけるのだろう。

常に門を開く 患者さんにも職員にも

井ノ口さんには看護師として、組織のリーダーとして目指す姿がある。

それは「常に門を開け、話しやすい、相談しやすい存在」になることだ。大切にしているのは、「常に優しさがある看護師であるために、患者さんへの接し方と職員への接し方は変えない」ということだという。


院長がやりたいことはこういうことなんだろうなと理解したら、「みんなにはこう伝えた方が分かるだろうな」と考えたり、院長が言っていることに、まだみんなついてきていないなと感じたら「院長ちょっと待ってくれる?」という感じで、常に周りを見ながら、チームの潤滑油のような存在となることを心がけている。

4月から組織が変わり、職員たちが不安を抱えないよう「院長はみんなの頑張りを分かっているからね。ちゃんと見てくれているよ」と声かけをする心配りも忘れない。

井ノ口さんには、背中を追い続けている人がいる。前の職場の看護師長だ。一緒に悩んで一緒に考えてくれる人、そして医師と話すときは前に出て守ってくれ、責任をとってくれる人だったという。そんなリーダーがいたことが、自分にとって心地良く、いつしか憧れの存在となっていった。

「みんなが100%の力を出せるように、意見を尊重し、背中を押せる存在になりたい」

これまで自分で背負ってきたことを少しずつ他のリーダーに譲っていきながら、「責任はとるし守るから安心してやってみて」と背中を押せる横林院長のような存在を目指したいと展望を語る。

開業から5年、追求し続ける理念経営。直面する課題や、クリニックの現状を客観的にとらえ、いま組織にとって何が必要なのかを考えて行動に移す。その積み重ねが組織の成長に繋がっているのだろう。

ほーむけあクリニックHPはこちら

著者:IGYOULAB編集部(イギョウラボ)

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