治らないと言われ返金を求められた・・・応じなければならないのか?|診療所のトラブルQ&A #4
診療所でのトラブルに関する質問に、本山総合法律事務所代表の宇佐美芳樹弁護士にお答えいただく連載。今回は「患者さんから治療しても治らないと返金を求められた場合、応じなければならないのか」というご質問にお答えいただきます。
どのような契約と理解するかがポイントに
返金に応じなければならないかどうかは、医師や歯科医師が患者さんに対して「どのような義務を負っているか」によるため、医師や歯科医師と患者さんとの間の診療契約をどのような契約と理解するかが問題となります。
請負契約と委任契約の違いとは
民法には人から依頼を受けて仕事をする契約として、請負契約と委任契約という2種類の契約が定められています。
それぞれどのような契約かを端的に説明すると、以下の通りです。
▼請負契約:仕事を完成させる契約
▼委任契約:仕事を行う契約
診療契約を請負契約と理解するのであれば、医師や歯科医師は診療によって病気や歯を治すという仕事を完成させる義務を患者さんに対して負うことになります。
これに対し、委任契約と理解するのであれば、病気や歯を治す診療行為を行いさえすればよく、病気や歯を治す義務までは患者さんに対して負わないことになります。
診療契約は判例のほとんどが委任契約と判断
それでは診療契約はどちらの契約なのでしょうか。結論を言うと、判例のほとんどは医師や歯科医師と患者さんとの間の診療契約は委任契約であると判断しています。
したがって、医師や歯科医師は患者さんに対して診療行為を行えば義務を果たしたことになり、結果として治らなかったとしても、もっと言えば診療前より悪化していたとしても代金を返金する必要はないということになります。
ただし、ここでいう診療行為とは医師や歯科医師として行う診療行為ですので、当時の医学的水準に照らして相当と認められるような診療行為である必要があります。
そのため、当時の医学的水準に照らして相当と認められないような診療行為を行った結果、治らなかったり前より悪化したりした場合には、債務不履行として患者さんに対し発生した損害を賠償する責任が生じます。
いわゆる医療過誤と呼ばれるものがこれに当たります。
つまり患者さんに対して損害に相当する金銭を支払う必要があるのです。
まとめ
以上をまとめると、医学的にみて一般的といえる水準の治療行為を行っていたのであれば、治らなかったとしても返金に応じる必要はありません。
これに対し、あなたが一般的な医学水準に照らして相当とはいえない診療行為を行ってしまったため治らなかった場合には、それにより患者さんに生じた損害を賠償するという意味で損害額相当の返金には応じる必要があります。