【シリーズ・第3回】ともに働く仲間を大切に|見据える地域医療のカタチ
広島県の中心部で外来・入院診療や訪問診療を行っている「ほーむけあクリニック」。患者さんや働く仲間が集まり、よい循環を生み出している医療経営のヒミツを探る連載。3回目の今回は、横林賢一院長(43)が組織作りにおいて大切にしていることについて聞いた。
感謝の言葉を口に いま共に働く職員を大切に
スタッフの紹介で入職した人や、元々クリニックに来ていた患者さんが看護師として働くなど、ほーむけあクリニックには“人”が集まってくる。知人に紹介したくなる職場、患者さんが「ここで働きたい」と思える雰囲気がそこにはあるのだ。
横林院長は、組織作りにおいて「まずスタッフにクリニックのファンになってもらう」ことを大切にしているという。
「今いる人たちが大切だ」ということと、「ありがとう」という感謝の言葉を、ともに働く仲間たちに横林院長は伝え続けている。
年に1度、院長面談を行っているが、コロナ禍でできなかったときは、スタッフ全員に対して、日ごろの感謝の気持ちを手紙に込めた。
2021年4月、8人のスタッフが新たに加わった。コロナ禍で歓迎会ができないため、横林院長は朝礼で入職した一人一人の名前を呼び、「数ある医療機関の中からうちを選んでくれたことを嬉しく思う。一緒に働いていて心強いし楽しいです」と感謝の気持ちを伝えた。
「院長が大切にしてくれているな」と感じてもらえたら嬉しいと笑顔を見せる横林院長は、「ただ思っているだけでは伝わらないので、感謝の気持ちは言葉や手紙にしている」と話す。
12月にクレープ屋をクリニックに呼んだ際、院長の“ポケットマネー”で新しく入ったスタッフたちにクレープをご馳走した。地域の人たちの笑顔のための企画であるのと同時に、スタッフに対しては「思い出と共に残る形」で自身の気持ちを伝えた。
コロナ禍といえば、飲食業も大打撃を受けた。横林院長は、地域の飲食店を応援しようと職員1人当たり、3000円の金券をプレゼントした。その金券で月に4回(現在は月2回)、飲食店の美味しいランチを頼み、スタッフへの感謝を伝えると同時に、地域の飲食業を応援する気持ちも込めた。
「スタッフが大切だ」ということをこんな言葉でも伝えている。
患者さんとのトラブルに巻き込まれたときに「クリニックを悪く思われたらいけないと思って我慢しなくていい。嫌なことは嫌だと言ってもいい」と。「その人がクリニックに来なくなっても、スタッフを守ることが最優先、みんなを守りたい」ということをしっかり言葉にしている。
いまいるスタッフを大切にすることが、クリニックのよい雰囲気づくり、そして新たな良い人材との出会いに繋がっていることが伺える。
柔軟な働き方を提供 不公平感が出ないよう心配りも
ほーむけあクリニックでは、産休から復帰しているスタッフたちもいる。子どもの保育園の送迎などがある人は時短勤務にしたり、週3日午前中のみの勤務にしたりと、そのスタッフの状況に合わせて柔軟な働き方ができるようにしている。
一方で、独身の人や子どもがいない人もいるので、不公平感が出ないように、時短にしている分は給料をカットしていることをしっかり周知している。また有給はスタッフ全員が消化できるように、組織長が率先してとるなど休みやすい雰囲気づくりも意識している。すべてのスタッフの立場や状況を考える横林院長の心配りが垣間見える。
そして、残業はボディブローのようにしんどくなると表現する横林院長は、残業はできる限りしないように呼びかけている。
ただ、サービス残業とならないよう、昼休みが忙しくて休めなかったときなど必要な分はしっかり請求してほしいと伝えている。職員が働きやすく、そしてその分だけ還元する。それを徹底しているのだろう。
座右の銘は『一笑懸命』 専門性を活かし笑顔を生み出す活動を
横林院長は開業するにあたり、自身の生活圏と診療圏を合わせた。そうすることで、「患者さんの町を良くしていきたいということではなく、自分たちが住んでいる町をよくしていきたい」という意識になれるという。「地域密着の一つの形なのかもしれない」と話している。
今後について横林院長は、専門性を活かして、笑顔を生み出す取り組みをさらに推進したいと展望を語る。
様々な患者さんと接する中で、横林院長が感じていることがある。
それは『ガン末期だが思い出に旅行したい、脳梗塞の後遺症で嚥下障害があり上手く飲み込めないが、レストランで家族と一緒に料理を食べたい』など“楽しみたい”という気持ちは、病気や障がいの有無、年齢に関わらず同じだということ。
「嚥下障害の対応など医師にしかとれない責任があるので、患者さんや家族、そして関わる職種の人たちのリスクヘッジとして自分を上手く使ってもらい、患者さんたちの何かをしたいという想いを応援したい」と考えている。
医師や看護師、作業療法士など医療スタッフが旅行に同行するなど、患者さんたちの希望に沿った事業を展開するため、トラベルドクターとして活動している医師や栄養士、歯科医師と組んで取り組みを進めている。
こうした活動は「医療の延長線」だと横林院長は位置づけている。
また、現在、地域の人たちの交流の場となっているカフェについても、医療機関併設という強みを活かした場所に発展できないか模索している。ステーキなど見た目はそのままで、舌でつぶせるほど柔らかい食品加工の技術が広島県内にあり、嚥下障害の人たちでも楽しめるレストランへの改装を目指している。
地域の人たちが集まれるイベントも継続しながら、専門性をいかした処置や対応ができる場にしていきたいという。
またガン末期の患者さんで、「家族にお世話になっているので恩返しをしたい」という話も聞くという。患者さんから家族の好きな食べ物を聞き、オリジナルの会を企画するなど、一人一人の患者さんや家族のためにプロデュースしていきたいと展望を語る。
目指すはEnjoy for all。
「近隣の人たちの笑顔を健康面からサポートする」とクリニックの理念にあるように「人との関わりを作り、楽しいと思える場を作るために、自分自身も楽しみながら形にしていきたい」と話す。
横林院長の座右の銘は「一笑懸命」。
人の笑顔のために懸命に頑張る人生を送りたい。自分が頑張ったことで誰かが笑ってくれて、その結果、自分が笑顔になれるという人生を送りたいのだという。
無限の可能性を秘めた横林院長の舵取り。
この先生にかかりたい、こんなクリニックに行きたい、ともに働きたい。
横林院長の人柄や地域医療への思い、そして身近な人たちを大切にするという心、そして「人を笑顔に」という一貫したぶれない思いが、多くの人たちを惹きつけているのだろう。
次回は横林院長とともに働く外来主任の看護師へのインタビューをお伝えする。次回の配信は6月17日です。