【シリーズ・第4回】顔の見える関係構築で質の高いケアを
人口動態や市町村の変化に合わせて変わる診療所経営に焦点をあて、医療法人北海道家庭医療学センター直営の2つの診療所の院長に地域の特性に合った医療提供や地域医療への想いについて聞く連載。(全4回)
1996年に北海道・室蘭で誕生した北海道家庭医療学センターは2008年に法人化し現在、北海道を中心に協力法人を合わせると15の拠点を持つ。
今回は、北海道の中南部に位置し、人口約4万5000人の登別市にある「若草ファミリークリニック」の安達記広院長(39)に、重視している「地域に出ることや他業種との繋がり」などについて聞いた。
若草ファミリークリニックは、安達院長を含めて常勤の医師2人、非常勤の医師3人、そして4人の看護師と事務長を含む事務職員4人で運営している。外来診療に加えて、隣接する室蘭市にある同じく北海道家庭医療学センター直営の「本輪西ファミリークリニック」と連携しながら、訪問診療も行っている。
センター直営のクリニックの連携の強み
全国には分院展開をしている医療機関も多くあるかと思う。また最近では資本関係にない診療所同士が連携をして経営資源を共有するグループシェア型の経営も増えてきた。
今回はそのような横の連携による医療の質の向上について伝えたい。
若草ファミリークリニックがある地域は、隣接する市に総合病院が複数あり、検査や専門医への紹介、入院などがしやすい場所でもある。一方で、近隣のクリニックなど地域医療を担う医師の高齢化などの課題を抱える地域でもある。
こうした課題がある中で、北海道家庭医療学センター直営のクリニックが連携してグループ体制で対応できることは大きなメリットだと安達院長は話す。
一人の医師で外来や在宅医療を担うのは体力的にも限界があるため、複数の医師で対応できるのは大事なことだという。
実際に、若草ファミリークリニックは室蘭市にあるセンター直営の本輪西ファミリークリニックと連携して訪問診療を行っている。複数の医師で行うことができるため、訪問診療を必要な患者さんに対して24時間、365日提供できる体制が整っているのだ。在宅医療を提供し続けるためにも、複数人体制は大きな力になる。
そして、他職種連携を含めて、個人ではなくグループで対応していくことの意義について安達院長はこう話す。
「高齢化が進み、様々な疾患を抱えている人や、一人暮らしで認知症の患者さんなど、複雑で対応が難しい患者さんが増える中で、医師やクリニック単位だけでは対応が難しい場面も出てくる。そんなときに、訪問看護師や地域包括支援センターなど他の職種の人と連携することで、より質の高いケアを提供できると思うので、こうした繋がりを持てることは大事だ」と。
地域に顔を出すことで育まれる患者さんへの強い想い
安達院長は、地域に積極的に出ることを大切にしていて、健康講話を行うなどしてきた。
しかし、新型コロナウイルスのまん延でイベントの中止が相次ぎ、3歳児健診や学校での健診、介護認定審査会などへの参加に限られるようになった。
そんな中でも、健診に参加した際に、市のスクールカウンセラーとの出会いがきっかけで、スクールカウンセラーや養護教諭の集まりに医師として参加することもあったという。思うように地域で活動できない中ではあるが、様々な形で地域の人たちと繋がることを続けているのだ。
過去には、地域に出たことで患者さんとの関係性がよくなったこともあったという。健康講話でアドバンス・ケア・プランニング(終活)というクリニックではあまり話す機会がなかったテーマについて話した。その人がその人らしく最期を迎えられるために、自分や家族が、最期の生き方を決めるというのは大事なことだと安達院長は伝えたかったからだ。
こうした機会を通して、クリニックでの診察以外で地域の人たちに伝えたいことを発信でき、患者さんからも健康講話について詳しく聞かせてほしいと声をかけてもらったこともあったという。
では、なぜ安達院長は、地域に出ることを大切にしているのだろうか。
お互いの顔が見えて関係性を築けるというのが一つの理由だ。
そして、「診察だけでみていることを越えて、地域を知ることで、地域に対して、そして自分が関わっている診療圏の患者さんをより身近にかつ大切に考えることができる」と安達院長は語る。
こうした思いから安達院長が大切にしている「患者さんへ寄り添う医療」に繋がっているのだろう。
医学的なこと以外にも必要なことが見える他職種連携
安達院長は、クリニックでの診察では、限られた時間内でしか患者さんをみることができず限界があるため、訪問看護師や地域包括支援センターの担当者など他職種の人の話を聞くことで、「患者さんの普段の生活の状態や、医学的な治療以外に必要なものが見えやすくなる」と話す。他の職種の人と連携することは基本的なことだが、とても大事なことだと安達院長は語る。
安達院長は、家庭医療診療所として、患者さんや他の職種の人たちから「何か困ったら相談してみよう」と思ってもらえる場所になりたいと考えている。
患者さんには、「まずこのクリニックに行けば何とかしてくれる」と、他職種の人からは、「患者さんのことで困ったら相談しよう」と思ってもらえる診療所になりたいという。
だからこそ顔の見える関係をつくるために、地域に出ること、他職種と連携することを大切にしているのだろう。
コロナ禍で外に出る機会が少なくなった昨今、クリニックの待合室で患者さん同士が話している様子をみていると、人と人との関わりを持ちたいという気持ちが伝わってくるという。
今後は、もっとサロンや人の集まりなど、自分たちが関わっている地域に出向き、クリニック外での関わりを増やしていきたいと安達院長は展望を語る。
若草ファミリークリニックのホームページのトップ画面にはこう書かれている。
「家庭医療を基盤として小児から高齢者、在宅医療まで、地域の幅広い世代の健康に貢献します」と。地域の中で、頼られる存在として医療を提供し続けるために、若草ファミリークリニックの挑戦はこれからも続く。
あとがき 寄り添う姿勢で信頼関係の構築へ
今回は安達院長に、自身が大切にしている「地域に足を運ぶこと」「他職種の人と連携すること」などについて伺った。
印象的だったのは「地域に出ることで、その地域や診療圏に住む人たちのことをもっと大切に思える」という言葉だった。
百聞は一見に如かずという言葉があるように、実際に自身の目でみることで得られるものは大きい。
知ることで思いが変わる、思いが変わることで行動が変わる。こうした積み重ねが、診療所の雰囲気や、地域の中での立ち位置を変えていくのかもしれない。
他職種の人たちと顔の見える関係をつくることで、患者さんにとっても切れ目のない支援を提供することができる。持続可能な医療提供の土台になるのだろう。
若草ファミリークリニックのHPはこちらから