“実録” 町民5000人規模の診療所 専門医の早急な診断が命を助ける
病床数500の都市部の病院にて、日夜カテーテル治療を行っている医師が、研修で町民5000人規模の地方診療所へ行ったときの話を伺った。
町唯一の診療所で、実際に対応した患者さんを通して地方診療所で実際にあったこと、感じたことを記録する。
診断からカテーテル治療を行うまでに2.5時間以上
ある日、胸痛を訴える患者さんが運ばれた。
午前11時半に発症し、病院に到着したのは12時半。
心電図により急性心筋梗塞と診断(このとき12時35分)。当医師は、すぐにでもカテーテル治療をしたいところであったが、ここは町民5000人規模の地方診療所。カテーテル治療ができるような環境ではなかったそうだ。
すぐにドクターヘリを要請し、14時に到着。患者さんは無事、都市部の病院へ搬送された。(救急車の場合、4時間かかる場所だが、ドクターヘリであれば約40分で到着することができる。)
とはいえこの時点で、発症から2時間半もの時間が経過していた。
Door‐to‐balloon time
90分以内の難しさ
Door‐to‐balloon time (=急性心筋梗塞の患者さんが病院に到着してから再潅流療法(閉塞した冠動脈の血流を再開させる治療)が施行されるまでの時間のこと)90分以内であることが理想的だと伺った。
しかし、今回は理想より倍近くの時間がかかっていることになる。
都市と地方との医療格差を初めて目の当たりにした気持ちになった。
取材させて頂いた医師の考えによると、理想の医療の形は、地方診療所でも高度な医療をすぐに提供できる環境が整っていることだが、全国すべての医療機関においてそのような環境を整えることは難しい。
しかし、正しい診断をすることで救える命をきちんと救うことはできると強く思ったそうだ。
町に一つしかない診療所での、専門医の重要性
この経験を通して地方の診療所こそ専門医の必要性をさらに感じたとのことだった。
今回、診療所に循環器専門医がいなければ、早急なドクターヘリの要請もできなかったそうだ。なぜなら本症例の場合、血液検査の結果に異常がなかったため、ただの胸痛として、経過観察となり帰宅となっていた可能性もあったかもしれないとのことだった。
最悪の場合、自宅で再度発作が起こり、治療が間に合わず心停止していた可能性も起こりえたのかもしれない。
また、仮に血液検査で異常値が出たとしても、それが判明するのに要した時間分、さらに搬送が遅れていたであろうとのことだった。
この場面に遭遇した医師からは、地方診療所での専門医の必要性は大きいとの見解であった。むしろ、検査や提供できる医療に限りがある小規模診療所こそ、必要なのかもしれない。
特に、1分1秒を争うような治療の必要が迫られるような急性期医療の専門医は、地方では不足しているため、より求められるのが実情ではないか。
限られた医療のなかで早急な治療へとつながる医療体制を願う声は、町民の中からも多いと感じる。
この記事は、医師の体験をもとに構成したものです。