自立支援型介護のためにクリニック・診療所にできること
高齢社会がもたらす診療所の役割や自身や職員の高齢化を含めた経営戦略などを考える特集「高齢社会。2040年までの経営戦略」。自立支援に特化した介護関連会社の経営・営業支援、人財採用定着支援のコミュニティを運営する介護コネクティブの寺本圭佑代表にご寄稿いただいています。
前回の記事では、介護保険が自立支援型に変わってきていること、今後の介護業界では患者さんの生活全体を見た総合的な関わりのできる医師が求められることをお話しいただきました。今回は、クリニック・診療所が介護事業を取り入れるための具体的な方法と、自立支援にフォーカスしたデイサービスの運営実例についてご紹介していただきます。
目次
クリニック・診療所が介護事業を取り入れるには
医療機関が自社で介護事業を展開するための1つの方法が、クリニック内、もしくは介護保険を使う通所リハ(以下デイケア)です。医療保険から負担できる外来リハビリテーションは、上限が決まっています。デイケアがあれば、外来に来られない方にリハビリテーションを提供することが可能です。
そのほかにも訪問リハビリもあります。介護報酬改定により、訪問看護ステーションからのリハビリテーションの基本報酬の引き下げが行われ、訪問看護ステーションに理学療法士を配置しづらくなりました。これにより、医療法人からの訪問リハビリの需要が増えると予想されます。
訪問リハビリは、医師の指示のもと理学療法士が出向く形になるため、新しい施設を作る費用はかかりません。まずは経費がかからない範囲で介護保険事業に関わる医師が増えることが、医療と介護の関わりの第一歩です。
クリニックや診療所の外来に来ていた患者さんは、治療が終わると地域に戻っていきます。地域で持続的なケアができていれば、疾患の増悪などで医療が必要なときに信頼できる医師のもとへ戻ってきます。診療所と介護事業が積極的に連携することが、定期的なフォローにもなるのです。
職種間の連携は、終末期を含む全ての過程で必要
自立支援型の介護が重視されているとはいえ、元気になることばかりではなく、その人らしい最期を支援する活動も必要です。終末期のサポートには、地域のナーシングホームや住宅型有料老人ホームとの連携があると、より全人的に患者さんの人生を支えることに繋がります。
現場にいる医療・介護職はそれぞれ役割が違いますが、患者さんの身体状況を把握している医師は、連携の中心になりえます。オープンに情報交換をすることで、患者さんがより生き生きと生活できる地域が増えればと考えています。
介護コネクティブ直営の自立支援特化型デイサービスIKIGAI
介護事業の実態を知っていただくため、私たちが地域で運営している愛知県西尾市の自立支援特化型デイサービスIKIGAIについてご紹介します。
IKIGAIは、『西尾市になくてはならない場所となる』という目標を掲げ、自立支援に特化した多機能型施設の拠点にすべく2021年にオープンしました。
事業対象者は要支援・要介護1、2と介護度の低い方が中心で、ご利用者様の契約数はオープンから1年で70人を超えています。利用者様からは「気持ちが落ち込んでいたけれど、IKIGAIのおかげで元気になった」「毎週、デイサービスの日が待ち遠しい」など温かい声をいただいています。
最近では西尾市長寿課や地域包括支援センターからの地域課題解決に向けたご相談もいただくことが増えてきました。
自立支援多機能型として目指すことは『アクティブシニアが活躍できるコミュニティ創り』です。
従来のデイサービスでは、男性よりも女性の参加が多く、定年後の男性が家に閉じこもりがちになることも少なくありません。IKIGAIでは、自治体や地域包括支援センターと連携し、定年後も社会参加しやすいコミュニティ創りを行っています。
また、IKIGAIのある愛知県西尾市はうなぎや抹茶などの1次産業も盛んです。これを加工から販売までを地元の地域で行う6次化産業にするために元気な高齢者が活躍する場を作り、ゆくゆくは『元気な利用者さんを雇用すること』も視野に入れています。
今後の事業展開で目指すところは、契約利用者数100人、自治体と連携した地域課題を解決するための公的保険外サービス(旅行、物販、行政委託事業など)の新規事業の創出です。
IKIGAIをはじめとするデイサービスには、理学療法士や看護師などの医療者が働いています。こうした専門職が利用者さんに最大限のサービスを提供するために、医師の力が必要です。疾患やリスク管理などの情報提供を円滑に行うことで、医療介護職全体で地域の高齢者の自立支援を追求できます。
今後は地域の医師や既存医療機関との連携をさらに強化し、保険内保険外を問わず、これまで地域になかった自立支援の形を作っていきます。西尾市の医師やそのほかの専門職と共に全国に広がるモデルを構築しようと考えておりますので、それぞれの視点でご協力をいただけますと幸いです。
自立支援型介護のため、医療と介護の垣根を超えた連携を
国が求める自立支援型の介護を実現させるためには、医療機関と介護事業が積極的に連携することが必要です。患者さんの病気だけでなく、患者さんの生活背景も見ること、医療的リスクを管理しながら安心・安全を確保した上で高齢者を元気にするアプローチをすることで、高齢者の活躍の幅が広がります。
それが医療費や介護費用の削減に繋がり、地域に住む全ての人のメリットにもなります。
日本は、世界の中でもこれまでにない少子高齢化時代を迎えています。高齢者が多い状況を強みとして医療・介護モデルを作ることができれば、それが世界に広がり、今後高齢化が起きてくる諸外国の支えにもなるはずです。
医療と介護の垣根を越えて、誰もが笑顔でいつまでも暮らせる日本を、医療・介護に関わる全員で共に創り上げていきましょう。