スタッフが院内情報をSNSに投稿しトラブルに・・・解雇と対応費用の請求はできるか?|診療所のトラブルQ&A #7
診療所でのトラブルに関する質問に、本山総合法律事務所代表の宇佐美芳樹弁護士にお答えいただく連載。今回は「スタッフがSNSで院内情報を投稿して、それが原因で患者さんとトラブルになったのですが、スタッフの解雇とトラブル対処に必要だった費用を請求できるでしょうか?」というご質問にお答えいただきます。
院内情報の投稿でトラブルに・・・解雇理由になる?
まず、スタッフがSNSに院内情報を投稿して患者さんとトラブルになったことが解雇理由になるかですが、解雇は「解雇という重い処分をするだけの合理的な理由があり、かつ、それが社会通念上相当と認められる場合」でなければできません。(労働契約法16条)
そのため、院内情報をSNSに投稿したことを理由に解雇できるかどうかは、SNSに投稿した院内情報の内容によることになります。
例えば、患者さんと病名を特定できるような形でSNSに投稿した場合のように、悪質性が高ければ解雇が有効であると認められる可能性は高いですが、情報がそれほどのものでなければ、たとえ患者さんが怒っていたとしても、注意や減給などの軽い処分にとどめ解雇まですることは認められないと判断される可能性は十分に考えられます。
法律や裁判所は労働者の権利保護を重視していますので、安易な解雇は裁判で争われると無効になってしまいます。そして、無効となった場合には従業員が復帰するだけでなく、解雇扱いだった期間中の賃金の請求も受けることになりますので、解雇を行うに当たっては慎重に検討することが必要です。
トラブルで生じた損害を請求できる?
次にトラブルによって生じた損害をスタッフに請求できるかですが、それは損害として支払ったものの内容によります。
スタッフが院内情報をSNSに投稿した行為は不法行為に当たると考えられるため、スタッフは不法行為と因果関係のある損害について賠償義務を負います。
この因果関係のある損害とは、原則として当該不法行為から通常生じる損害を意味します。
そのため、例えば過剰に患者さんに慰謝料を支払った場合など、当該不法行為から通常生じる損害とはいえないようなものについては請求できません。
また、通常生じる損害であっても必ずしもその全額を請求できるわけではなく、雇用主から従業員への損害賠償は、損害の公平な分担の観点から相当と認められる限度でしか認められません。
これは、雇用主は従業員を使って利益を上げている以上、従業員を使って生じた不利益も甘受すべきであると考えられているからです。
したがって、SNSに投稿した内容から通常発生するものであれば請求できますが、全額は請求できない可能性があります。
まとめ
以上のように、SNSに投稿した内容次第では解雇できますし、発生した損害もSNSの内容から相当といえるものであれば制限されるかもしれませんが請求できます。ただし、解雇は従業員に対する究極の処罰であるため、十分に検討した上で行うことが必要です。