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長年通院していた患者さんからカルテを出すよう言われました 開示する必要は?何年分必要?|診療所のトラブルQ&A #9

診療所でのトラブルに関する質問に、本山総合法律事務所代表の宇佐美芳樹弁護士にお答えいただく連載。今回は「長年通院していた患者さんが治らないと怒り、過去の通院分のカルテを出して欲しいと言われました。出す必要はありますか?また何年分を出す必要があるのでしょうか?」というご質問にお答えいただきます。

請求があった場合は原則開示が求められる

患者さんからカルテの開示請求があった場合に、これに応じなければならないのでしょうか。この問題については、個人情報保護法33条に規定されており、原則として開示しなければならないとされています。

「原則として」と規定されているように、例外的に応じなくてもよい場合もありますが、患者さん本人や第三者の権利利益を害する恐れがある場合など極めて限定的な場合(個人情報保護法33条2項)であるため、例外に当たるようなケースはそれほど多くはありません。

なお、カルテの開示については、厚生労働省作成の「診療情報の提供等に関する指針」や日本医師会作成の「診療情報の提供に関する指針」においても、原則としてこれに応じなければならないと定められています。

診療情報の提供に関する指針

厚生労働省と日本医師会作成の指針では、開示請求があった際に「申し立ての理由の記載を求めることは不適切である」とされているため、開示をするにあたって理由を聞くことはできません。

なお、開示する場合の費用ですが、実費を勘案して合理的な範囲内と規定されているので、実費だけでなく多少の手数料をのせて請求することができます(個人情報保護法38条)。ただし、余りに高額だと事実上カルテの開示を拒否しているのと変わらないと判断される可能性があるため注意が必要です。

開示に不当に応じない場合、個人情報保護委員会による介入があり、この委員会の開示命令にも従わない場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられます。

何年分のカルテ開示が必要?

続いて「何年前からのカルテを開示しなければならないか」についてですが、個人情報保護法には何年分という規定はないため、求められた期間分はすべて開示する必要があります。

ただし、カルテの保存期間は法律で5年と定められているため、5年より前のカルテについては廃棄していて開示できなくても問題にはなりません。 

医師や歯科医師の先生からすると、患者さんからカルテの開示請求をされると、医療過誤の損害賠償請求をされるのではないかと不安になり、できれば開示したくないと思われるかもしれませんが、上記のようにカルテの開示請求には応じなければなりません。

余談ですが、弁護士が開示請求をする場合は必ずしも医療過誤訴訟を念頭に置いているわけではなく、例えば契約や遺言の無効を主張するために患者さんが当時認知症で判断能力がなかったことの証拠として使いたい場合や、離婚訴訟で依頼者が配偶者から暴力を振るわれていた証拠として使いたい場合など用途は様々です。

むしろ、医療過誤の証拠として使おうとする場合には、開示請求のような悠長な手続きはとらず、裁判所に証拠保全手続の申立てを行います。証拠保全手続が行われると、弁護士と裁判所が直接医院に来てカルテをコピーしたり写真を撮ったりしていくため、初めて体験される方は驚かれるのではないかと思います。

著者:宇佐美 芳樹

本山総合法律事務所代表弁護士。愛知県弁護士会所属。

労務管理、労働トラブルの解決、債権回収、クレーマー対応、契約書のリーガルチェックなどの企業法務を中心に、離婚、相続、交通事故まで広く民事商事全般を取り扱う。クライアントの声に耳を傾け、粘り強く最良の解決方法を探っていくことを信条とする。

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