医院の信頼を損なうのでは・・・スタッフと患者さんの不倫の噂にどう対応する?|診療所のトラブルQ&A #10
診療所でのトラブルに関する質問に、本山総合法律事務所代表の宇佐美芳樹弁護士にお答えいただく連載。
今回は「スタッフと患者さんが不倫をしているという噂が流れてきました。信頼を損なうので事実なら退職してほしいと伝えたら、恋愛などプライベートなことはお話できませんと言われ事実関係を確認できません。事実関係を確認してはいけないのでしょうか?」というご質問にお答えいただきます。
職場の秩序を維持するための雇用主の権利
雇用主は事業を円滑に遂行するために職場の秩序を維持する権利を有しています。そして、労働者は雇用主と労働契約を結んでいる以上、職場の秩序を維持して働く義務を負っています。
そのため、雇用主には職場の秩序を乱す可能性がある問題が生じた場合には、それについて調査する権利が認められています。ただし、雇用主の調査権限は上記のように職場の秩序維持のために認められているものですので、調査はそのために必要かつ相当な限度で行わなければいけません。
不倫疑惑は秩序維持にとって重大問題
本件は、スタッフが患者さんと不倫していることが疑われるということですので、実際に行われていた場合には医院の信用に関わります。これは職場の秩序維持にとって重大な問題といえますので、「ある程度の根拠があるのであれば調査の必要性は認められる」ものと考えられます。
本件では噂が流れてきたという程度のことですので、まずは噂の出所とその根拠の確認を先に行う必要がありますが、その結果、単なる誹謗中傷のようなものでないと判断されれば調査をする必要が認められるでしょう。
調査は必要性が認められる場合に相当な限度で
次に調査する必要性が認められるとしても、調査は相当な限度で行う必要があります。
例えば、スタッフに不倫を認めさせようと、否定しているにも関わらず、執拗に長時間にわたって聞き取りを続けたり、威圧的な聞き取りを行ったりすることは明らかに相当性を欠きます。雇用主はあくまでも中立的、客観的に調査する必要があります。
その上で、どのような聞き取りをして、どのような回答をスタッフがしたかを記録に残しておくことが肝心です。これは後日、実際には不貞をしていたことが明らかになり解雇する必要が生じた場合に、解雇の有効性の一つの材料として使うことができるからです。
なお、この件に限らず、問題が生じるかもしれない場面では、常に後日争いになるかもしれないと考えて証拠を残していくという意識をもつことは、経営をするに当たって、とても重要な考え方ですので意識してみてください。
まとめ
以上のように、スタッフが患者さんと不貞関係にあるかどうかを調査することは雇用主の権利として原則認められますが、調査する場合には相当な限度で行う必要があります。