厚労省手引から学ぶ、医療機関での求職者への情報提供戦略
医療業界の人材確保は、人口減少と労働力不足が進む中、ますます深刻な課題となっています。質の高い医療を提供し続けるためには、適切な人材の確保と長期雇用が経営上、欠かせません。
最近は医療業界に限らず、多くの職場で求人の応募者が集まらない、また入職者が1年以内に辞めてしまうケースが増えています。その主な理由は、応募者が知りたい情報と提示されている情報の不一致や入職後の実際の仕事と事前に思っていたものとのミスマッチです。この問題を解決するためには、採用する際に正確な情報をしっかりと伝えることが大切です。
今回は、厚生労働省が新しく策定した「求職者等への職場情報提供にあたっての手引」を基に、どのように情報提供することが人材の確保と職場定着に効果的か分かりやすくお伝えしたいと思います。
目次
法令に基づく情報の明確な提供
労働者募集時には、職種や職務内容、勤務地、労働時間、休憩や休日の取り扱い、給与体系など、具体的な労働条件の明示がすべての職場に義務化されています。また、人材の多様性やキャリア形成の機会、ワークライフバランスの支援策など、職場が提供する環境に関する情報の積極的な開示も推奨されています。
これらの情報は職場の魅力を正確に伝え、求職者に正しいイメージを持ってもらうためにも最低限必要です。
求職者のニーズに応える情報提供
近年では、求職者は単なる給与や勤務条件だけでなく、職場の理念、成長機会、ワークライフバランスの実現可能性といった、より幅広い情報に基づいて職場を選ぶ傾向があります。
特に、取得できるスキルやキャリア形成などに関する情報、柔軟な働き方を支援するテレワークの実施状況や、ダイバーシティ&インクルージョンに関する取り組み、メンタルヘルスケアのサポート体制など、働きがいと働きやすさを示す内容が、多くの求職者にとって重要な判断材料となります。
効果的な情報提供戦略
情報提供には、ウェブサイトや求人票だけでなく、SNSを利用した発信、説明会や選考前の面談などで行うことが有効です。
特にウェブサイトでは、リアルタイムでの情報更新が可能であり、求職者が常に最新の情報を得られるようにすることがポイントです。
また、実際の職場環境を伝えるために、在籍する職員の声や日常の業務風景を紹介することも、職場の魅力を伝える上で非常に効果的です。
医療機関での具体的な取り入れ方
これらのことを踏まえ、医療機関では以下のような情報提供戦略が効果的だと思います。
【情報の内容】
①診療内容と専門性の明確な提示
診療方針や専門分野を明確にし、最新の医療技術や治療法を分かりやすく説明します。
②職員の成長サポート
職員のスキルアップやキャリア開発を支援する研修や資格取得支援制度について情報を提供し、成功事例を共有します。
③ワークライフバランスの実現への取り組み
フレキシブルな勤務体系や有給休暇の利用促進、育児支援策を通じて、働きやすい環境を整備し、それらの取り組みを積極的に伝えます。
④患者さんとの関係性への配慮
患者さんとのコミュニケーションや提供する医療サービスの質について、情報を共有し、患者さんの声や口コミを積極的に紹介します。
【発信方法】
①ウェブサイトやSNSでの情報更新
ブログやSNSを活用して、日常の業務や職場の雰囲気、職員の声などを定期的に更新し、透明性の高い情報共有を心がけます。
②問い合わせへの迅速な対応
SNSやウェブサイト経由の問い合わせに対して、迅速かつ丁寧に対応し、求職者との良好な関係を構築します。
③動画コンテンツの利用
職場の雰囲気や実際の業務の様子を動画で紹介し、よりリアルな職場イメージを提供します。医療機関ならではの専門的な治療や技術、チームワークの良さを伝えることができます。
④職場見学や面談の提供
実際の職場環境を求職者に直接見てもらう機会を提供します。これにより、求職者は職場の雰囲気や日々の業務を理解しやすくなり、より具体的なイメージを持つことができます。
厚生労働省の手引きはこちらから
「求職者等への職場情報提供に当たっての手引」の詳細は、厚生労働省の公式ウェブサイトでご確認ください。
「求職者等への職場情報提供に当たっての手引」を策定しました|厚生労働省
編集後記:患者さんの安心にもつながる職場情報提供
良好な医院の情報提供は求職者に対してのアピールのみならず、患者さんが安心して来院できる重要な要素となります。医院に関する明確な情報があることで、事前に施設の品質や利用可能なサービスが理解でき、不安を感じることなく治療に訪れることができます。さらに、職員の働きやすさや成長をどれだけ大切にしているかを公にすることで、高いレベルの医療サービスが受けられるという期待が高まり、信頼も深めることができるでしょう。
職場情報提供に力を入れることで、最適な職員の確保、職員の長期雇用、患者さんの不安解消、そして医療サービスの全体的な質の向上につながると考えられます。
毎日の忙しさの中でも、これらの取り組みに少しでも時間を割くことが、結果的に大きなメリットにつながるのではないでしょうか。ぜひ、積極的に実践していただきたいと思います。