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【シリーズ#1】選択の基準は「患者負担を減らす医療の形」DXの活用がもたらす効率性と患者満足度向上

医療DXの導入を積極的に進めている北海道千歳市にある緑町診療所の稲熊良仁院長(48)にDX化や医療戦略などについて伺った。予約や問診をWEB上で行える仕組みや医療コンシェルジュ(クラーク)を導入、さらにオンライン診療も進めている。待ち時間の短縮に繋がるなど患者満足度も高いという稲熊院長が作り上げてきた診療システム。どのような取り組みなのか。

そこには、これからの日本の未来を見据えた理想の医療の形を実現するために、一貫した戦略があった。

(なお、緑町診療所は、以前取材させていただいた医療法人北海道家庭医療学センター直営「向陽台ファミリークリニック」の中島徹院長にご紹介いただいた。向陽台ファミリークリニックの連載はこちらをご覧ください。)

連載「地域特性にあった医療経営を」

「天命に従って医師という天職を選んだ」

北海道に縁のなかった稲熊院長が千歳市という場所で医療DXを導入し、全国でも圧倒的な公式LINE登録1万2000人を超えるという診療所の開業に至った流れを少しお話したい。

愛知県豊橋市出身で総合内科専門医の稲熊良仁院長(48)。2001年に山形大学医学部を卒業後、札幌医科大学、自治医科大学などで総合診療を学んできた。2020年4月に現在の地に開業。現在医師1人、看護師5人、医療事務兼クラーク4人をはじめ職員13人とともに診療所を運営している。

緑町診療所の稲熊院長

祖父が町医者で、医者の仕事に憧れがあったという稲熊院長。生命への興味や、人と話すことが好きだったことから高校生のときに医師を志す。

母方の叔父も医師で、幼い頃、祖母の家に行き叔父が残した戦時中の医学生の手書きのノートを見たという。当時は教科書も無く、海外の教科書を写したり、スケッチしたりして作っていたようだ。

そのノートを手にした時「戦時中に命がけで医学の勉強に励む叔父の気迫を感じた」と稲熊院長は振り返る。そんな思い出も、稲熊院長が医師という職を選ぶ後押しとなった。

「医師はやりがいがあり、一生かけてできる仕事。いま開業医としてチャレンジしていることにも誇りを持っている」と話し、祖父からの歴史も考えても「天命に従って天職を選んだ」と稲熊院長は語る。

山形大学医学部を卒業後、当時は幅広い診療のできる医師になりたい、国境なき医師団など途上国の医療に携わりたいという思いもあった。そのために幅広く経験が積める場所として地域医療を志し、またアウトドア好きなことから、自然豊かで土地の魅力を感じた北海道に渡った。

そんな中で選んだ道が「救急総合診療」だった。道内の中小病院から沖縄の離島、ドクターヘリのある救命救急センターまで、一次、二次、そして三次医療まで幅広く経験してきた。また2年ほど自治医科大学の地域医療学講座で学び、そのうちの約半年バンコクに留学して国際感染症と公衆衛生について学んできた。この時の経験が新型コロナウイルス流行時に生かされた。

稲熊院長は救急総合診療に携わる一方で、次世代の総合医を育てるべく研修医教育をライフワークとして力を尽くしてきた。

「自分の中で45歳ぐらいまでに一旦キャリアにめどをつける時期が来るだろう」稲熊院長は周りの医師たちを見る中で、45歳が一つのキャリアの分岐点になると感じていたという。自分がその年齢になったときに、どの道を歩むかしっかり選択ができるように準備してきた。

そして稲熊院長が選んだのは「開業」という道だった。

開業の道を選んだ理由とは

なぜ開業という道を選択したのか。

それは「急速に開発される医療DXを取り入れて日本の未来のために質の高いプライマリ・ケアをやりたいと思ったから」だった。

従来の日本の外来診療では、同じ病院、診療科であっても診察室それぞれの医師のやり方で行われていて、医師個人のパフォーマンスに委ねられていた。

例えば患者さんが最も不満に思うことは待ち時間。待ち時間は、診療時間が長引くために起きてしまうわけだが、その原因をひも解くと医師が問診、診察、検査、カルテ記入を同時並行で行わなければならず、個々の患者さんの診察時間の延長の連続であり、さらに会計でも待ち時間が発生してしまうことに行き着く。労働生産性や効率性が考慮されておらず、その結果の2時間待ち、3分医療。患者さんが不満に思うのも無理はない。ここにシステムとして改善の余地がある、と感じたという。

そんな状況を踏まえ「待ち時間を減らし、なおかつ患者さんと丁寧に向き合う時間を生み出す」という一見矛盾する課題を解決する「患者満足度を高める×効率のよい診療」システムを自ら生み出しそうと開業の道を選んだ。

活路を見出した医療DX活用

稲熊院長が求める「患者満足度を高める×効率のよい診療」において、大きな転機となったのが、近年の急速な医療 DXの進歩だった。オンライン上で予約や問診ができるシステムや自動会計機なども世に出てきた。

緑町診療所では、これらを組み合わせることで待ち時間の少ないスムーズな外来を実現している。自宅にいながらホームページや LINEからパソコンやスマートフォンで予約や問診ができ、来院してからの待ち時間を短縮している。自動会計機で現金、クレジットカード、QR コードで支払いが可能となり、会計待ち時間も大幅に短縮した。

さらに着目すべきは医療コンシェルジュ(クラーク)の導入だ。医療コンシェルジュは医師の診察前に問診とバイタルサインをチェックして事前に電子カルテに入力する。医師は事前に電子カルテを見てから診察室に入り診察や処置を行う流れだ。

医師は基本的な情報が入った上ですぐに診察に移ることで、最初から患者の状況を理解した一段深い診療ができるという。医師と患者さんとの会話や診療オーダーは医療コンシェルジュが同時進行でカルテに入力していくため、医師は常に患者さんに集中して向き合うことができる。患者接遇に関しても医療コンシェルジュを謳うだけに日々研鑽を積み、患者満足度を高める努力をしているという。このように医療DXによって確保した余裕を本質的な患者サービスに向けることも患者満足度を上げる一つのポイントだ。

稲熊院長は、カルテのことを「患者さんの財産」と表現する。DXや医療コンシェルジュを活用して質の医療の高いカルテを書き、かかりつけ医としてデータを蓄積していくことが重要だと考えている。

職員が診療の流れをオペレーション

緑町診療所の職員は、全員がインカムをつけている。

看護師や医療コンシェルジュなどのスタッフが常にインカムを通じてドクターに「診察室1番、準備できています。外傷処置です」「レントゲン室に来てください」「その次は発熱外来で3人診察してください」などと的確に次の動きを伝えている。インカムによって、全員が立体的に状況を把握し診療を効率的に回せているのだ。

つまりオペレーションの中心は医師ではなくスタッフ。医者はチームの指示に従って効率的に診察のみを次々に続けていく。

稲熊院長は「当院は医者だけが主人公のクリニックではない。入口から出口まで患者さんに最高の医療体験を提供する、チーム全員でかかりつけ医です」「院長である自分に何かあった時でも、この仕組みなら、代診のドクターでも70~80%のスピードで診療を回すことができる。どんな時も診療が途切れないことは、クリニックが地域の医療インフラとなるために重要なこと。ひいては職員の職場を守ることにもつながる」とその有用性を語る。

望む医療の実現のためにDXが浸透しやすい場所を開業地に

理想とする「新しい時代のかかりつけ医」の実現のために、稲熊院長は開業場所の選択や採用においても、医療DXの推進を軸に選択した。

医療のデジタル化推進にあたっては、提供する側、使う側の双方に一定のリテラシーやスキルが求められることになる。それを踏まえ開業場所として選んだのが、北海道で最も年齢層が若い千歳市だった。
(なお千歳市の平均年齢は、令和5年1月時点で44.5歳となっている)

千歳市は自衛隊や航空産業の町で、機械に触れる職業の勤労、子育て世代が多い街である。医療DXが浸透しやすい場所だと判断しこの地を選んだ。

また愛知県出身の稲熊院長にとって、空港のある千歳市は故郷や学会活動をはじめ飛行機で国内外各地に移動しやすい点も決め手の一つとなった。

働き方改革、地域のための医療DX活用

現在、バックヤードやバックオフィスの DX 化も進めている。

院長を含めて特定の職員にしか分からない業務があると、その職員の休みや退職、有事の際に業務が止まってしまう。そうならないためにも「業務の属人化、占有化」を解消する仕組みを整えておくことでスムーズな運営が可能になる。

「住民の視点で見ると、どんなに小さな診療所でも大切な地域医療インフラ。患者さんの為には決して途絶えてはいけない。経営者の視点で見ると、職員の職場とその向こうの家族の生活を守る社会的責任がある。開業した以上は永続化するための仕組みを作り上げることが大切だ」というのが稲熊院長の見解だ。

診療所公式LINE 会員が約1万2000人に

緑町診療所の公式LINEの会員は約1万2000人に達し、現在も増え続けている。公式LINEは、ホームページや各種SNS、電話問い合わせ時や、来院患者さんなど様々な媒体で案内している。

電話自動応答システム(IVR)を導入していて、電話がかかってくると自動音声で応対、スマホには自動でショートメッセージを返送し、ホームページや公式LINEの案内をして誘導している。

公式LINE登録者には、日ごろから医療の情報を届けることも大切にしている。診療所からの休診などのお知らせだけでなく、新型コロナウイルスやワクチンなどの情報、さらには「上手な医者のかかり方」といった院長からのメッセージを発信するなど、地域住民やかかりつけ患者さんとの日常的な繋がりを重視している。こうした活動によって、かかりつけ医として認識してもらえるのだと稲熊院長は話す。

そしてこの公式LINEを積極的に活用していきたいと広がりに期待を寄せている。今後は緑町診療所のLINEに登録しておくことで、災害対応や、患者さんの健康ポータルとして提携する眼科や皮膚科、歯科などにもスムーズに繋げ、予約や問診も連携できるような仕組みを作っていきたいと考えている。
(災害対応に関する展望については、第3回記事で詳しくお伝えする。)

「地元でも、旅行などで離れていても、いつで普段のかかりつけ医にトータルで健康を守ってもらえるという便利さと安心感を備えた仕組みを作っていきたい。」と稲熊院長は未来を見据える。

編集部あとがき

医療DXの先駆けとして、経営戦略の一つに医療DXを導入し成功に導いているのも本当の意味で「新しい時代のかかりつけ医=患者中心の医療」という軸を見つけ、明確にされているところだと感じる。地方のケースはこのようにトップである院長が何をしたいか、なぜしたいのかが明確だと強いように感じる。

医療DXや医療コンシェルジュの活用により、待ち時間短縮や患者さんとしっかり話す、説明する医療はグーグルなどの患者満足度評価においても良い結果が出ているそうだ。

またコロナ禍で、稲熊院長自身が新型コロナウイルスに感染した際にも、自宅からオンラインで診療を続けることができたという。医療DXを活用した外来システムを構築していたからこそ継続できたのだろう。

厚生労働省が2023年2月に「かかりつけ医機能」の強化について発表している。2025年4月に始まる新しい「かかりつけ医」のスタイルに一石を投じるかもしれない。

医療DXの導入においては、運営力や職員の理解も欠かせない。稲熊院長はどのように工夫しているのだろうか。次回の記事でお伝えする。次回の配信は5月8日。

緑町診療所のHPはこちらから

著者:IGYOULAB編集部(イギョウラボ)

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