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【シリーズ#2】コロナ禍で力を発揮 医療DXがもたらす安心と多様なニーズへの対応

医療DXの導入を積極的に進めている医療法人ミライエ 緑町(みどりちょう)診療所(以下緑町診療所)の稲熊良仁院長(48)にDX化や医療戦略などについて伺う連載。緑町診療所では予約や問診はWEB上で、さらにオンライン診療も進めている。待ち時間の短縮に繋がるなど患者満足度も高い診療システムを構築している。

2回目の今回は医療DXを進めるために工夫してきたこと、そしてオンライン診療について伺った。

(以前、取材させていただいた医療法人北海道家庭医療学センター直営「向陽台ファミリークリニック」の中島徹院長に稲熊院長をご紹介いただいた。なお、向陽台ファミリークリニックの連載はこちらをご覧ください。)

【連載】地域特性にあった医療経営を

医療DXの導入 こうして職員と共有してきた

緑町診療所では予約や問診をオンライン上で行い、医療コンシェルジュ(クラーク)を活用して効率的で待ち時間の少ない診療を実現している。医療DXの導入においては、職員の理解も欠かせない。

稲熊院長は職員の理解を促し、同じ方向を向いて進めるように工夫していることがある。それは「年に複数回、事業方針や医療方針を職員の前でプレゼンテーションし、方向性を共有する」ことだ。

職員全員が組織の全体像を俯瞰できないと「院長がまた思い付きでやっている」と捉えられかねない。

実際の患者さんのフィードバックをまとめて「こういう取り組みによって、このように喜ばれた。こういう声が聞かれている」と示しながら、診療所として提供していく医療の形を職員全員に共有している。

「特にデジタルは接してみるまで分からない部分が多いので、リーダーの伝え方が重要になる」と稲熊院長は考える。

緑町診療所はスタートアップだったため、新しいことを導入するのに職員の抵抗感は少なかったものの、新しいことを始めて診療所が上手く回っていることを感じると、より一層、新たな取り組みに対して抵抗感が少なくなっていく。こうした流れや積み重ねの大切さが結果に繋がっているのだ。

IT担当の職員を採用 

現在、看護師5人、医療事務兼クラークが4人をはじめ、職員13人の職員とともに診療所を運営している。うち1人はリモートで働くIT担当職員だ。

ホームページやSNSの再構築、無料PCR検査用のLP(ランディングページ)の作成、さらには院内のマニュアルやスケジュール、職員や院外の人とのやりとりをビジネス用のチャットツールで行うなど、バックオフィス・バックヤードの DX 化も進めている。

「今後さらに労働力不足が叫ばれていく中で人材難になることが予測される。診療所を地域医療のインフラとして存続させるためにも、バックオフィス・バックヤードも効率化して、なるべく属人性に頼らない仕組みで対応していくことが大切だ」と稲熊院長は話す。

医療DX導入における様々なシステムづくりや運営は、当初、稲熊院長一人で行っていたが、メンテナンスやシステムの進化にともない一人では時間がなく回らなくなってきた。

そんな時にITに長けている職員を採用した。現在は東京から完全リモートで勤務している。(今春からは診療所で勤務)

IT関連の運営を任せられることで、稲熊院長は診療や経営者としての業務により時間をかけて取り組めるようになった。

コロナ禍での開業 いち早く発熱外来開設

緑町診療所が開業したのは2020年4月。新型コロナウイルスが猛威を振るう中での開業だった。開業当初であり、またコロナ禍による受診控えもあり患者さんが少なかった。

発熱患者を受け入れる診療所が少ない中で、5月には近隣市町村で民間初の発熱外来を開設、テレビや新聞などにも大きく取り上げられ、口コミなどで多くの患者さんが訪れた。

稲熊院長は、空港のある千歳市では国際感染症が発生すると予想して開業前から診療所の動線や設計を作っていた。これは海外で感染症を学び、前任地のニセコでインバウンドの外国人患者を診療した経験によるものだ。

感染症に関する職員研修を行った上で、2020年5月初旬、千歳市で初となる発熱外来を開設。敷地内に簡易テントを張り、診療所の出窓を使ってのスタートだった。

発熱外来に来た人たちには、まず受付してもらいそれと同時に公式LINEに登録してもらう。呼び出しブザーを渡して、待ち時間の間に公式LINEメニューからWeb上で問診を行ってもらった。

そして診療所の出窓を活用して診察や薬の受け渡しなどを行うため、発熱患者は診療所内に入ることなく診療することができた。

発熱外来で医師が患者さんを診察する時には診察している内容を、スマートフォンのビデオ通話で診察室から医療コンシェルジュがモニタリングしてカルテを入力。医療のDX化で感染隔離ができ、自院や薬局職員の安全を守ることに繋がった。

オンライン診療 スマホが企業や施設の医務室に

開業当初から行っているオンライン診療。コロナ禍では、在宅療養の人や、家族が陽性になった人たちの受診もあった。さらに出先から薬を処方して欲しいというニーズもあるという。

現在、緑町診療所では次の3つのオンライン診療サービスが実施されている。

・企業版オンライン産業医サービス 
・高齢者施設オンライン診療サービス
・保育所オンライン診療サービス

イメージ

緑町診療所では、スマートフォン1台を各企業や施設に貸し出してオンライン診療に活用している。

往診に行っている高齢者施設とは、LINEのチャットを使って診察の必要性の確認など気になることがあれば、すぐに報告・連絡・相談ができる環境を作っている。事務的なやりとりも全てLINEで行っている。

LINEのメッセージは稲熊院長のスマホや、受付に置いている公用スマホで、職員が通知確認できるようになっているため、すぐに対応可能だ。

また企業の産業医として、ストレスチェックで面談が必要な人に対してはzoomでも対応ができる。オンラインで面談が可能なため、社員が休みをとらなくても時間休でよく、企業側のメリットにもなっている。

診察する側にとっても、移動がなく効率がよいのは言うまでもないが、チャットを併用していることで記録が残り、各施設や企業の担当者の名前などのいつ誰がどのように応対したか分かる事もメリットだと稲熊院長は捉えている。

今後は訪問診療にもIT活用を

現在は行っていないが、いずれは訪問診療にもITを活用していきたいという。

稲熊院長は「コロナ禍で人との繋がりが分断され、医療に対する信頼が損なわれてきたと感じている。医療DXのテクノロジーを活用し、医療への信頼を取り戻していきたい」と力を込める。

編集部あとがき

医療DXによって今までの固定概念を打破し、幅広く周知することや業務効率を高めることができる。しかしそれは「軸となる考え」と「失敗を恐れずにやってみよう」という行動に移す勇気が必要だということを強く感じた。

職員への丁寧な説明や担当職員の採用、診療システムとして稼働し機能させる試行錯誤を経て、日々の診療がアップデートされ、オンライン診療のように医療をもっと身近に感じてもらう具体的な活動に繋がっているのは未来への期待感が高まる。

稲熊院長は、医療DXを活用した取り組みをさらに発展させ、新しいかかりつけ医の形を見出していきたいと展望を語る。新しい形とはどのようなものなのだろうか。

そしてもう一つ、緑町診療所が重視しているのが災害に強い診療所づくりだ。

医療経営において大切にしていること、稲熊院長が考える新しいかかりつけ医の形などについて、次回の記事でお伝えする。次回の配信は5月15日。

緑町診療所のHPはこちらから

著者:IGYOULAB編集部(イギョウラボ)

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