「自分だけ映すので撮影したい」とユーチューバーに言われたら?正当に断る理由とは?|診療所のトラブルQ&A #11
診療所でのトラブルに関する質問に、本山総合法律事務所代表の宇佐美芳樹弁護士にお答えいただく連載。今回は「ユーチューバーに『自分だけを映すので撮影したい』と言われました。断ったところ『自分を映しているだけなのに何が悪いのか』と正当な理由を聞かれ、答えられませんでした。正当な理由で断ることは出来ないのでしょうか?」というご質問にお答えいただきます。
「自分を映すだけ」撮影を断れる?
ユーチューバーが自分を映すだけだからと言ってきた場合でも、撮影を断ることができる正当な理由はあるのでしょうか。
自分を映すだけだからと言っても本当にユーチューバー以外の人が映り込むことが無いか分からない以上、他の患者さんやスタッフさんは不安に感じるでしょうし、質問された先生も断りたいと思います。
この場合、実際に無許可で誰かが映り込み、それをYouTubeにアップしようとするのであれば、肖像権の侵害が問題となります。しかしながら、今回のユーチューバーは「自分以外は映さない」と言っていることから、肖像権侵害の可能性があることを理由に断ろうとしてもなかなか納得しないでしょう。
撮影を断れる正当な理由とは?
そのため、他に納得させられる正当な理由がないかが問題となりますが、そもそも医院はあなたが管理する建物です。したがって、その建物内でやめてほしい行為があれば、あなたはやめるように求める正当な権利があり、これが正当な理由になります。
先生がやめてほしいと言っているにも関わらず、それでも続けるのであれば、ユーチューバーに対し退去を求めることができます。それでもユーチューバーが退去しないのであれば、ユーチューバーに不退去罪が成立する可能性があるため警察を呼びましょう。
この不退去罪とは、住居侵入罪と同じ刑法第130条に規定されている犯罪で、「正当な理由がないのに、人が看守する建造物から退去しなかった者」に適用され、違反した者には「3年以下の懲役又は10万円以下の罰金」が課されます。
医院は撮影をする場所ではないため、管理者である先生が撮影を断わり、退去を求めているにも関わらず、なお居座り続けるのであれば、不退去罪が成立する可能性が高いのではないかと思います。
撮影しながら受診を求めた場合は?
なお、ユーチューバーが撮影しながら診療を求めているので、診療拒否ができるかという問題も生じますが、医師法19条1項には「診療に従事する医師は、診療治療の要求があった場合には、正当な理由がなければ、これを拒んではならない」と規定されているため、正当な理由があれば診療治療を拒むことができます(歯科医師法19条1項にも同様の規定があります)
先生がユーチューバーに対して撮影をやめれば診療治療をすると言ってもユーチューバーがやめないのであれば、医師と患者さんとの信頼関係が破壊されていると言えるため、診療治療を行わない正当な理由があると認められるのではないかと思います。