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前代から働くスタッフの昇給 承継後も続けなければならない?|診療所のトラブルQ&A #13

診療所でのトラブルに関する質問に、本山総合法律事務所代表の宇佐美芳樹弁護士にお答えいただく連載。今回は「父親から承継しました。父親の代から働いている60歳のスタッフの昇給を今年から止めると伝えたところ、『最初の雇用時にずっと昇給があると伝えられたのでここまでやってきた』と言われました。一生上げ続けなければならないのでしょうか?」というご質問にお答えいただきます。

昇給を続ける義務はあるのか?

まず、父親がスタッフと「ずっと昇給する」と約束していたのであれば、それは父親とスタッフとの間の契約となります。

あなたは、父親とスタッフとの労働契約を引き継いでいますので、それに伴い、毎年昇給させるという契約も引き継いでいます。そのため、本当にそのような契約が結ばれていたのであれば契約に従って昇給を続ける義務を負います。

ただし、本当にそのような契約を父親が結んでいたかどうかは分からないと思います。このように、当事者間で事実関係に争いがある場合には、事実があると主張する側が原則として証明責任を負います。

したがって、スタッフが契約書などで毎年昇給させる旨の契約の存在を証明できるのであれば、あなたは昇給する必要があり、できない場合には原則として昇給に応じる必要はないということになります。

労働契約の内容となってしまう場合も

ただし、労働契約の場合、以下のように契約書で合意していなくとも労働契約の内容となってしまう場合があります。

①就業規則に記載がある場合
まず一つは、就業規則に記載がある場合です。就業規則に労働契約よりも労働者にとって有利な内容が書かれている場合、その記載内容が労働契約の内容となります。そのため、今回のケースでも就業規則に毎年昇給があるという条項が入っていれば、昇給させなければいけません。

就業規則はこのように労働契約の内容になってしまう重要なものであるにも関わらず、内容を精査しないまま安易に導入されているケースが散見されます。よく内容を読んでみると使用者側にとって不利な条項が入ってしまっている場合があるため注意が必要です。

②労使慣行の場合
次に、長年にわたって現に昇給が続いていた場合、契約をした事実はなくとも、労使慣行により労働契約の内容となってしまう場合があります。

具体的には、一定の事実が長年にわたって継続して行われていることに加え、それが偶然継続していたわけではなく、使用者側が継続しないといけないという認識に基づいて続けていたというような場合に労使慣行となります。

例えば、使用者が毎年昇給しないといけないと発言していたとか、何らかのルールに基づいて昇給を行っていたと認められるような事情があれば労使慣行が認められるのではないかと思います。

まとめ

以上のように、昇給は原則としてそのような契約をしていたという事実が認められなければする必要はありません。

しかし、使用者と被用者との間では明示的に労働契約で結んでいなくても労働契約の内容となってしまうケースがあるため使用者は注意をする必要があります。

著者:宇佐美 芳樹

本山総合法律事務所代表弁護士。愛知県弁護士会所属。

労務管理、労働トラブルの解決、債権回収、クレーマー対応、契約書のリーガルチェックなどの企業法務を中心に、離婚、相続、交通事故まで広く民事商事全般を取り扱う。クライアントの声に耳を傾け、粘り強く最良の解決方法を探っていくことを信条とする。

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