勤務医が私的使用し車の価値が低下・・私的な使用分の請求はできる?|診療所のトラブルQ&A #6
診療所でのトラブルに関する質問に、本山総合法律事務所代表の宇佐美芳樹弁護士にお答えいただく連載。今回は「勤務医に通勤のために貸していた車をプライベートでも使用され、予想よりも車の価値が下がってしまいました。通勤以外で使用した部分については請求できるのでしょうか?」というご質問にお答えいただきます。
私的な利用分の損害賠償請求は可能
勤務医に通勤のために車を貸していたとのことですので、勤務医は通勤以外の用途であなたの車を使う権限はありません。そのため、これをプライベートでも使っていた場合、勤務医には不法行為が成立し、勤務医に対し損害賠償請求をすることが可能です。
ここでいう損害には、勤務医がプライベートで使ったことで走行距離が増えて自動車の価値が低下したということも含まれますので、これを請求することもできます。
私的使用での事故でも問われる使用者責任
社用車を従業員が私用で使っていた場合、損害よりも事故を起こした場合の方が重大な問題です。
プライベートでの使用を禁止していたにも関わらず、勤務医が無断で使って起こした事故なので関係ないと思われるかもしれませんが、民法715条の使用者責任若しくは自賠法3条の運行供用者責任に基づき、あなたも損害賠償請求を負う可能性があります。
使用者責任とは、勤務医や従業員などがあなたの事業の執行について第三者に損害を与えた場合に、あなたも勤務医らと連帯して損害賠償義務を負うという責任です。
「事業の執行について」とあるので、一見すると業務外の私用で運転している場合には成立しないようにも思われますが、最高裁は「事業の執行」とは、実際に事業の執行中であった場合だけを意味するのではなく、行為の外形から見て、あたかも職務の範囲内に属すると認められるものも含むとしています。
そのため、従業員が私用で社用車を利用したようなケースでも、比較的広く使用者責任が認められてしまうのが実状です。
人身事故の場合も連帯して賠償責任を負う可能性
これに対し、運行供用者責任とは、自動車の運行により生命や身体に対する損害が生じた場合には、その運行を支配できる立場にあった者も損害賠償義務を負うという責任です。
今回のケースでは、あなたが所有する車を勤務医が借りて使っていたということですので、あなたが自動車の運行を支配していたと認定される可能性が高いです。
そのため、勤務医がたとえ私用で車を使っていたとしても、人身事故を起こした場合には、事故を起こした勤務医と連帯して損害賠償責任を負う可能性が高いことになります。
まとめ「適切な管理の徹底を」
以上のように、社用車を勤務医がプライベートでも使っていた場合には、それにより生じた損害の賠償を請求することは可能です。
しかしながら、それ以上に、社用車を勤務医に使わせる場合には、適切に管理をしていないと業務外の事故の責任まで負うことになってしまうので注意が必要です。