勤務医に医療法人に出資してもらい退職時に価値相当額を戻すのは違法?|診療所のトラブルQ&A #15
診療所でのトラブルに関する質問に、本山総合法律事務所代表の宇佐美芳樹弁護士にお答えいただく連載。
15回目の今回は「Amazonが幹部へのボーナスを自社株で支払い、企業価値を高めるモチベーションにしているという記事を読みました。勤務医のやる気を高めるために、自社株を持たせるように医療法人に出資してもらい、退職時に医療法人の価値に合わせて出資額を戻す仕組みにしたいと思っています。違法なのでしょうか?」というご質問にお答えいただきます。
勤務医の医療法人への出資は合法?
勤務医に医療法人に出資してもらい、退職時に医療法人の価値に合わせて出資額を戻すことは違法なのでしょうか。
まず、医療法人は平成19年3月31日までに設立されたものであれば出資持分という概念が認められていますが、それ以降に設立された医療法人には出資持分という概念が認められていません。
そのため、平成19年4月1日以降に設立された医療法人の場合は、そもそも出資して持ち分を取得してもらうということはできません。これに対して、平成19年3月31日までに設立された医療法人であれば、追加出資して持ち分を取得することは認められていますので、勤務医に出資してもらい持ち分を取得してもらうことも法律上は可能です。
動機づけ目的の出資はオススメできない?
しかしながら、実際にはインセンティブを目的として出資してもらうことはお勧めできません。それは、以下のような理由によります。
退職時に医療法人の価値に合わせた出資額で買い戻す場合、ここでいう医療法人の価値とは不動産などを含む医療法人の資産総額となります。
そのため、勤務医の出資額が例えば出資総額の10分の1の場合、買い戻しに必要となる金額は医療法人の資産総額の10分の1に相当する金額となります。
このように資産総額を基準に計算することになるため、場合によっては預金を全部使っても足りないというようなことも想定され、経営が成り立たなくなる可能性があります。
したがって、「インセンティブを目的とするような出資は違法ではありませんが、行うべきではない」ということになります。
それでは、Amazonの場合はどうかというと、Amazonはたしかに給与の代わりにインセンティブを目的として株式を従業員に交付しています。
例えば100万円分の給与に相当するものとしてAmazonが株式を交付し、従業員はその後、頑張って働くことでAmazonの企業価値を高めれば、数年後には100万円以上の金額で株を売却できるという趣旨で交付されています。
ただし、この場合、従業員が数年後に株を売却するのはAmazonに対してではなく、株式市場において第三者に売却します。そのため、上記のように医療法人のような問題は生じないのです。
まとめ
以上のように、医療法人の持ち分を取得させることは、Amazonが株式を取得させることとは全く状況が異なります。
したがって、インセンティブ目的での出資は、平成19年3月31日以前に設立された医療法人であれば可能ですが、おすすめはできません。