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出入り業者に無償での雑務を拒否され契約解除することは法的に問題あり?|診療所のトラブルQ&A #16

診療所でのトラブルに関する質問に、本山総合法律事務所代表の宇佐美芳樹弁護士にお答えいただく連載。

16回目の今回は「10年前から出入りしている業者さんに無償で雑務をお願いしていました。新しい担当者が雑務をやりたくないと言ってきたので、それでは取引をしないと伝えたところ、不当で法的に問題があると言ってきました。本当に不当なのでしょうか?」というご質問にお答えいただきました。

下請法と独占禁止法に関わる事案

「出入りしている業者に無償で雑務を頼み、拒否した場合に取引を行わないことが法的に問題あるのか」というご質問ですが、このような行為を規定する法律として下請法と独占禁止法があります。

そのため、下請法と独占禁止法に違反するかが問題となりますので、以下これらの法律について説明します。

下請法に違反する?

下請法第4条第2項第3号には、「親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることによって、下請事業者の利益を不当に害してはならない」と規定されています。

今回の相談のように無償で雑務を頼むことは「役務その他の経済上の利益を提供させる」に当たります。そのため、あなたと出入り業者との関係が「親事業者」が「下請事業者に対し製造委託等をした場合」に当たれば、下請法の適用を受け、同法律に違反していることになります。

この点、「製造委託等」とは、製造委託、修理委託、役務提供委託及び情報成果物作成委託を指します。それぞれの細かい説明はここでは省略しますが、例えば医療法人で言うと、医療法人が患者の検査を行い、検査結果の解析を外部に委託するような場合が役務提供委託に当たると考えられています。

次に、「親事業者」と「下請事業者」に当たるかどうかですが、これはそれぞれの資本金(出資金)の額によって決まります。これもかなり細かいので説明は省略しますが、上記の委託内容ごとに「親事業者」や「下請事業者」に該当する資本金等の金額が法律によって定められています。

したがって、雑務をやらせている業者が、あなたから製造委託、修理委託、役務提供委託及び情報成果物作成委託のいずれかを受けている業者で、あなたと委託先が法に規定されているような出資金額等の差がある場合には、下請法違反となります。

独占禁止法に違反する?

次に、独占禁止法は19条で「事業者は不公正な取引方法を用いてはならない」と規定し、2条9項5号ロで「不公正な取引方法」の一つとして「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」、「継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」と定めています。

この点、取引先に無償で雑務を頼むことは、「役務その他の経済上の利益を提供させること」に当たりますので、あなたが「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用」したと認定されれば独占禁止法違反となります。

そこで、どのような場合に「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用」したことになるかが問題になりますが、出入り業者があなたとの取引継続が困難になることが事業継続上大きな支障を来すような状況にあった場合にこれに当たると考えられています。

なお、大きな支障をきたすかどうかは出入り業者にとっての取引依存度の高さや取引先の変更が可能かどうかなどで判断されます。

そのため、あなたと出入り業者との関係がこのような関係と認められる場合には優越的地位を濫用したとして独占禁止法違反になります。

著者:宇佐美 芳樹

本山総合法律事務所代表弁護士。愛知県弁護士会所属。

労務管理、労働トラブルの解決、債権回収、クレーマー対応、契約書のリーガルチェックなどの企業法務を中心に、離婚、相続、交通事故まで広く民事商事全般を取り扱う。クライアントの声に耳を傾け、粘り強く最良の解決方法を探っていくことを信条とする。

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