厳しいベテランが新人を辞めさせる問題 | ベテランも新人も辞めさせない効果的な解決策
新たに採用したスタッフが、あるベテランの言動をきっかけに退職してしまう。しかし、そのベテランは仕事が早く、患者さんへの対応力も高い 。
こうした板挟みに悩む院長は少なくありません。
今回はこの「ベテランスタッフが新人を辞めさせてしまう」問題の解決策として、運営会社トゥモロー&コンサルティングの支援先でも多くの成果が上がっている「限定的な育成」という新たな選択肢をご紹介したいと思います。
採用や定着率向上を目指す先生方は、ぜひ動画もあわせてご覧ください。
辞めさせる? 風土改革? よくある2つの対策
ベテランスタッフの影響で新人がすぐ辞めてしまう状況に直面したとき、まず考えられるのがベテランスタッフを「辞めさせる」という対処法と、ベテランスタッフを直接変えるのではなく、職場全体の風土を変えるための大がかりな改革という2つの選択肢だと思います。
どちらにも大きなリスクや負担が伴うため、院長としては「なるべくどちらも選びたくない」と考えるのが正直なところではないでしょうか。
ここでは、それぞれの方法のメリットとデメリットを簡単に整理してみます。
「辞めさせる」という選択肢
問題のあるベテランスタッフを「辞めさせる」という選択肢の最大のメリットは、問題を迅速に解消し、院内の雰囲気をスピーディーに改善できることです。
しかし一方で、ベテランの豊富な知識や経験を失ううえに、即戦力を欠くことで残ったスタッフへの業務負荷が急増するという大きなデメリットがあり、院長にとっても痛手が大きい決断だと思います。
「262の法則」で職場風土を変えるという選択肢
もう一つよくあるアプローチとしては、“262の法則”に基づいて職場全体を変えていく方法があります。
これは、スタッフを10人と仮定した場合、「2人」は非常に前向きで優秀、「6人」は中間層、「2人」はネガティブで問題を起こしがち、という割合になるとする考え方ですが、真ん中の「6人」の層をポジティブに育てることで、ネガティブな「2人」の居場所を自然と狭め、院内全体の雰囲気を高めようというものです。
具体的には、研修の導入やコミュニケーション方法の見直しでスタッフのモチベーションを高めることなどがあります。
これは組織全体の意識改革につながる一方、時間やコスト、スタッフの協力が欠かせないのが難点です。
多忙な先生方にとっては、導入が難しく、すぐに成果を出しづらい方法だといえます。
第3の選択肢「限定的な育成」というアプローチ
まず、問題を起こすベテランスタッフにも、大きなプラス面がある点を押さえておきましょう。
たとえば、業務が早く正確で、患者さんや現場のことをよく知っていること、開業期から長年勤務してきたことで職場への思い入れが強く、緊急時や残業にも柔軟に対応してくれることなどです。
これだけのメリットを持つスタッフを、簡単に辞めさせるのは職場にとって大きな損失です。
とはいえ、新しく採用したスタッフが続かないことも深刻な問題です。
「言い方が厳しすぎる」「新人に対して当たりがきつい」などの理由で退職者が増えると、採用コストもかさみ、なにより職場のチームワークが崩れてしまいます。
実際、院長が本当に困っているのは「新人が辞める」ことであって、「厳しすぎるベテランスタッフ」の存在自体を全面的に否定しているわけではない場合が多いのです。
そこで注目されるのが、“ベテランスタッフの長所を活かしつつ、新人を辞めさせない状態をつくる”という「限定的な育成」という考え方です。
ポイントは、ベテランスタッフの改善すべき部分を最小限に絞り、そこに的を絞ったアプローチをすることにあります。
①言い方だけを変えてもらう
具体的には、「厳しいことを言うな」というのではなく、“言い方”だけをソフトにしてほしいと明確にお願いするのがポイントです。
「当院では優しい声かけを基本方針にしたい」「相手が不快に感じる表現は避けてほしい」などの価値観をはっきり示し、その言葉遣いが原因で新人が続かないケースがあることをロジカルに説明します。
厳しいベテランほど、「自分はそこまでつらく当たっているとは思わなかった」という意識のズレが大きいことが多いため、事実ベースで伝えるのが重要です。
②「教育担当者」から外す
仕事が速く経験値の高い人に新人教育を任せるのが最適に思えますが、必ずしもそうとは限りません。
むしろ「厳しすぎる指導」が新人の離職を招く原因となっている場合は、ベテランを教育担当者にしないのが得策です。
新人には別の先輩やスタッフが教え、ベテランには業務フローの改善や緊急時のフォローなど、大きな視点が必要となる役割を任せることをおすすめします。
これだけでも、新人が直接厳しさにさらされる機会が減り、退職率が下がるかと思います。
③院長の想いを共有する
大切なのは、院長が「なぜ優しい職場にしたいのか」「どんな雰囲気を目指しているのか」を、ベテランスタッフにもきちんと伝えることだと思います。
「患者さんに優しく声をかける場所でありたいから、まずスタッフ同士の声かけも優しくしてほしい」といった理想像を言語化すると、ベテランスタッフにも納得感が生まれやすくなります。
厳しさ自体を否定するのではなく、職場の価値観や経営理念の一貫として“言い方”を変えてもらうよう働きかけましょう。
まとめ
ベテランスタッフを辞めさせる、大掛かりな組織改革を行う――どちらの方法も先生にとってリスクやコストが高く、そう簡単には踏み切れないことが多いのではないでしょうか。
その点、「限定的な育成」はごく一部の行動を変えてもらうだけでよいため、実行しやすく、現場でも成果を出しやすいのが利点です。
①言い方を変えてもらう
②教育担当から外す
③院長の想いを明確に伝える
この3つを実践するだけでも、厳しいベテランと新人との衝突を最小限に抑え、新人の定着率を高める効果が期待できます。
新人スタッフの離職にお悩みの先生には、ぜひ、今回ご紹介したポイントを実践していただき、ベテランスタッフの経験を活かしつつ、新人スタッフも長く安心して働ける職場づくりを目指していただきたいと思います。